VOS,No.106

 学長告辞 [Back]

“自分”を作る
長岡技術科学大学長
服部  賢

 新入生の諸君入学おめでとう。長岡技術科学大学の教職員一同を代表して,本学に入学された諸君を歓迎し,お祝いを申し述べます。
 本日より新たに本学の一員となるもの,十余日前に本学の課程を卒業・修了し,上の課程に進んでさらに勉学に励もうとするものそれぞれですが,この入学はいずれも将来への高い志があってのことと思います。“志立たざれば舵なき舟,銜(くつわ)なき馬の如し”と言います。若い日の胸に抱く志は自分自身の“人”をつくる源泉になります。
 諸君はこの二十一世紀の初頭を長岡技術科学大学という環境の中で過ごすことになります。緑濃い越後の丘陵に位置する本学は,昭和53年,高い技術能力を持つ人材の養成を目的として,それまでの大学の枠を超え,大学院を主体にした学部との一貫教育を柱とする新しい構想の大学として開学しました。
 以来23年の歴史は決して長いものではありませんが,この間に本学において展開された教育研究における数々の工夫と知的な試みは,他学に例を見ない優れた教育システムを持つ大学として輝かしい個性を作り上げて参りました。諸君が教職員および在学生とともに,未来に向けて本学の更なる充実の原動力となることを期待しています。
 さて,我々人類は歴史に残る以前から技術に親しんできました。技術によって便利を得た人々は更なる便利を求めて新たな技術を生み出してきました。技術は次第に高度になるにつれて単体では成り立たず,一つの新しい技術が生まれるとそれが目的どおりに働くのを助ける他の新しい技術が必要になります。必要が必要を生んで,技術は幾何級数的に増大して参りました。この技術を振りかざし,経済的発展を目指してひた走りに走った二十世紀は,まさに物が物を生み,技術が技術を作った時代でありました。
 今我々は人と自然との間に大量の人工物が介在する複雑な環境の中にいます。技術とその影響が全地球に及び,人間の生産物が地球の包容力を凌駕(りょうが)する今日,我々は環境の問題を避けて通ることはできません。
 科学技術が人類,社会,自然環境に対して大きな影響を与える時代になると,技術者は時代の最先端に位置するようになり,社会に本質的な影響を与える意思決定を行う立場になります。技術者には,研究者あるいは技術を扱う企業家も含めて,自分の技術,技術開発や応用がもたらす結果に対して責任を持たなければならない,という基本認識が必要になります。
 一方で,二十一世紀の社会はますます多様化し,かつ激しい競争社会になることは必至であります。均一化されたといわれるこれまでの社会では,人と同じことを人より早くやることが競争でありました。しかし,多様化の社会にあっては如何(いか)に人と違ったことができるか,如何に特徴を持つかが競争になります。その社会で活躍するには,技術者としてはもちろん,企業人として社会人として必要なことは,自己を持つこと,自ら考え,自ら実行する能力と意欲を備えることにあります。事に当たってまずその本質を捉え,対応を考え,そして決断と実行。こういったことは指導的立場の人間として大事なことであり,その能力を培う訓練は若いときに行われることが肝要であります。
 科学技術の進歩が急速になれば短時間に大量の知識を習得することが求められます。吸収された知識は咀嚼(そしゃく),分解,再構築されて新しい技術を生み出します。諸君がこの大学で過ごす時期はまさに若さ溢(あふ)れるときであります。若い柔軟な頭脳と肉体は強い吸収力と咀嚼力をもって諸君の成長を支えます。諸君を畑に譬(たと)えれば,その畑にはいずれ何らかの技術の種が蒔(ま)かれます。畑はその技術を育てることができる様な土壌を持たねばなりません。一つの栽培が終わって,幸い収穫が得られた,そして次の技術の種が蒔かれる。それを育てる豊かな土壌。諸君の土壌はこれまでの経験と本学での訓練が作り上げる確固とした工学の基礎と広い教養です。そして常に学ぶ姿勢が畑を肥沃(ひよく)に保ちます。
 本学には国の内外から集まった2,600を超す学生と教職員がともに学びます。産業界を中心に学外から多くの人々が訪れます。人間が成長する過程では,人と人との生の触れ合いが何ものにもまして大事なことであり,幅広い人間性をはぐくむ糧になります。それはまた,異分野の人々との連携ができる柔軟性,異質のものを当然として受け入れる包容力を養います。
 唐の詩人,李白がその詩に“天,わが材を生じる,必ず用あり”という様に,人はそれぞれ特有の才能を持ちます。自分を作る,諸君はこの大学で自らの才を磨き,豊かな個性を育ててください。諸君が掛けがえのない貴重な青春期を過ごすこの長岡,四季の彩りも鮮やかな長岡での数年が,充実した日々となることを祈って,入学式の祝辞と致します。