VOS,No.109

 研究トピックス [Back]

0 ‘Seeing is believing.’
─超高速加工を,レーザーを使って直接観察─
伊藤 義郎
(機械系 教授)

 近年,携帯電話などに代表される,軽・薄・短・小の製品を作るために,精密・微細な加工に対する要求がますます多様,かつ厳しいものになっている。そのため,様々な新しい加工法が発展してきている。その中には,レーザー加工や放電加工などの,特殊加工といわれる加工法が含まれている。これらは,光や放電のエネルギーを,短時間に高密度で材料に与え加工するもので,加工現象はナノ秒(10-9s)からマイクロ秒(10-6s)程度の非常に短時間に起こり,通常はプラズマの発生を伴う高温過程でもある。
 この様な加工を精度良く制御し,希望する製品を得るためには,加工現象がどのようなものなのかを十分良く知っておくことが必要である。しかし,加工現象については,これまでは加工条件と加工結果の対比から,推測されることが多かった。現象が非常に高速度で,変化が激しく,その上,加工時に発生する高温のプラズマが障害となるため,加工現象を直に観察,測定することが困難だからである。
 我々の研究室では,短パルスレーザーによる加工過程を直接見てやろうという研究を進めてきた。さらに,最近では放電加工中の極間の現象を観察することも試みている。今回は,この放電加工に関する研究について紹介させていただく。
 この研究の発端は,東京大学の毛利教授と大学院生の武沢氏が,細いタングステン電極に数百μ秒の間,大電流を流し放電させると,電極の先が非常に細い尖った針状に成形される,という現象を発見したことに始まる。この現象により成形された微細軸を放電加工の電極に用いて,微細な穴あけ加工が可能であることも実証された。また,先端部は数十ナノメートルの曲率半径であり,STM(Scanning Tunneling Microscope;走査トンネル顕微鏡)などの探針へも応用可能である。こうして成形された微細軸とそれを用いてあけた微小穴の例を図1に示す。
図1(a) 図1(b)
図1   (a)放電によって形成されたタングステンの微細電極と
(b)それによって金属の薄板に加工された穴。元の電極径は125μm。

 どのようなメカニズムでこのような微細化が起こるのかが分かれば,放電でできる軸の細さや長さなどの制御も可能になるであろう。そう考えた毛利氏らは,レーザー加工プロセスを時間分解で観察していた我々に,放電による微細軸形成過程を時間分解で観察したい,と共同研究を呼びかけてこられた。
 放電中の電極形状の変化を観察する場合には,レーザー加工過程の観察の場合と同じような困難に出会う。放電には,非常に明るいアークプラズマ柱が伴うため,通常の撮影法では,このプラズマの発光しか観察できない。そこで,レーザー光を照明用の光源とする,我々の方法が有効になる。測定システムの略図を,図2に示す。レーザー光のみを透過するようなフィルターを用い,撮影用カメラの感度を適当に調整すると,その波長における輝度の違いから,プラズマの発光が撮影されず,レーザー光による像だけが撮影されるようにできる。撮影される像は,カメラのシャッタースピードにかかわらず,レーザーがあたっている瞬間の像が撮影される。一種のストロボ写真と思っていただければよい。我々の用いているレーザーは,パルス幅が10ns,波長532nmのものであるので,10nsの時間分解能で観察できることになる。欠点は,撮影の繰り返しが遅いことで,このため1回の放電に対して1つの像しか撮影できない。放電による電極の変化が,毎回同じであるならば,放電の開始時刻と撮影用レーザー光の発光時刻との間隔を徐々に変えながら,撮影を繰り返すことで,放電によって電極がどのように変化していくかを観察することができる。
図2 測定システムの略図

 この様にして撮影した例が図3である。各画像の中央部縦の黒い線状の影が,電極の形である。観察時間は,放電開始時刻からの時間である。放電の幅を400μ秒に設定してあるので,400μ秒までが放電中の電極形状を,450μ秒以降が放電終了後の変化を示している。普通にカメラで撮影すると,図3中の「レーザーなし」で示すように,放電アークの発光しか写らず,電極の形状は全くわからない。
 図3の一連の画像では,450μ秒あたりの像から,細くとがった針が観測されている。この結果は,我々を驚かせた。細い針状の部分は,溶けた電極から放電中に成長する,というのが毛利氏らの予測であったが,結果は,放電終了後に溶融部が移動し針状の形状が露出するという,まったく逆のことを示していたからである。なぜこの様な現象が起こるのかについては,現在も追究中であるが,この結果は,実際の現象を直接観察する,ということの重要性を示している。
 ‘Seeing is believing!’
 我々は,様々なレーザー加工現象についても,この様な直接観察を試みている。

図3   撮影された電極形状。観察時間は放電開始時刻からの時間。各画像の中央部縦の黒い線状の影が,その時刻での電極形状である。400(レーザーなし)は,放電開始後400μ秒で,レーザーとフィルターを用いず,単にCCDカメラで撮影した場合の画像。他の画像とはスケールが異なることに注意。
この研究は毛利教授,武沢氏の他,卒業生の清久,学生の小倉,田辺,鈴木の諸君による,研究成果である。また,機械系福沢教授と福沢研佐藤氏に,御援助いただいた。