VOS,No.110

 卒業・修了を祝して [Back]

時流を読める技術者たれ
 

国立高等専門学校協会会長・
福井工業高等専門学校校長

生 越 久 靖


 晴れて学部を卒業,大学院修士課程及び博士課程を修了された皆さんに心よりお祝い申し上げます。例年ならば,洋々たる前途と夢多き人生をお祝いする言葉をお贈りするところですが,国の内外で起こる深刻な問題はそのような気持ちにさせてくれません。
 1945年,第二次世界大戦終了から始まる半世紀は,資本主義対共産主義の拮抗するバランスの上で,世界が動いてきたわけですが,1989年のベルリンの壁の崩壊は新しい時代の予兆を告げておりました。それでも,人々はもっと緩やかな変化の中に身を委ねることを期待していたようですが,情報技術の長足の進歩はあらゆる面でグローバル化の速度を加速したために,これからのわれわれ人類は地球という有限の惑星で共存を図ることが要求されています。1990年以降の時代は,グローバル化による政治・経済の急速な変化が起こり,特に日本では失われた年代として多くの問題が噴出し,「国は一体どんなグランドデザインでもって国民をリードしてゆくのか?」という問題が問われています。ヨーロッパでも,東南アジアでもアメリカの先導するグローバル化を警戒する動きがありますが,情報化の進む世界ではグローバル化を避けることは非常に難しいと考えられます。グローバル化に支配されて暴走する世界が制御不能になる前に,世界の社会科学者は第三の道を探そうとしていますが,依然として前途は不透明のままです。したがって,我々の前には我が国だけで解決することが出来ない問題があることを知っておきたいと思います。
 昨年の9月,ニューヨークで起こった同時多発テロが世界中を瞬時にして震撼させたことは皆さんの記憶に生々しく残っているものと思います。この事件と関係するアフガニスタンの問題については,皆さんはご存じと思いますので,省略いたします。この間,長期にわたるテロリストの支配と内戦により荒廃したアフガニスタンの復興を支援する国際会議が日本で開催されました。その会議における,アフガニスタン暫定政権議長のハミド・カルザイ首相の演説は私達の胸を熱くするものを伝えてくれました。「この荒廃した何も無い国に,最も必要なものは教育である。」教育を最優先においたこの国の指導者の見識には敬意を表するとともに,彼の救国の一念が切なく痛く感じられます。戊辰戦争後の長岡の米百俵の物語及びフランスとの戦いに破れたドイツのフィヒテ(ベルリン大学学長)の名演説「ドイツ国民に告ぐ」は国民を鼓舞しました。この演説は,フランスの占領下にあっても国を復興し,発展させるためには教育が重要であることを説いたものであります。日本が危機的な状況から脱し,将来の国のあるべきすがたを設計するためには,教育は速効性こそないが,必須欠くべからざるものであると思います。
 諸君が勉学された長岡技術科学大学も国立大学の一つであり,文部科学大臣の提唱する大学の構造改革のプランでの対象となっています。国民の税金で運営される大学は,組織運営に関する然るべき説明責任が要求される,経済効果が上がるように民間的な手法を取り入れる,大学間の教育・研究に競争原理を働かせる,評価機関による適正な予算配分を行う,大学の情報公開をする等,いろいろな改革案が提示されています。大学改革をより有効に推進するために,国立大学を法人化することにより,大学の自律性,自主性を高めようとする方針が間もなく具体化されようとしております。
 一方現実では,若年層の理工系離れ,少子化,大学のユニバーサル化により,日本の科学技術の空洞化が進行しています。また,工業高校の軽視は技能面の国際的なレベルの低下を招き,理工系大学生の学力の低下からくる技術の国際的な競争力の喪失が憂慮されています。技術科学大学の卒業生は,高等専門学校の卒業生とともに新しい時代の科学技術をリードしてゆくことが期待されております。そのためには,専門的な知識を深めることと能力を高めることは言うまでもありませんが,時流を読むための教養と国際感覚を養成され,世界に羽ばたく技術者に成長されることを心より祈念しております。