VOS,No.111

 特集/新入生歓迎!! [Back]

学長告辞
知と智を蓄える
学長
服 部   賢


 新入生の諸君入学おめでとう。長岡技術科学大学の教職員一同を代表して,本学に入学された諸君を歓迎し,お祝いを申し述べます。これまでの学校教育の課程を修(お)えて本学に進学するもの,既に社会にあってさらに自己を高めるべく本学に学ぼうとするもの,今日ここに集う諸君は年齢も経歴もさまざまですが,いずれも学を,技術を究めようとする志を持つものであります。“志を立つること高からざれば,則ちその学皆常人のことのみ”といいます。高い目標を持って本学での勉学に臨まれるよう期待しています。

 諸君がこれからの数年を過ごすことになる長岡技術科学大学は,今日25回目の入学式を迎えました。昭和53年に一期生を迎えて以来,豊かな社会の発展・維持に必要な技術の創出,構築に携わる実践的,創造的な技術者の養成を理念として,可能な数々の新しい施策を構想し,実現して参りました。この四半世紀,技術系の単科大学として既に独特の,そして他に誇るに足る教育研究システムを築き上げてきた本学は,さらに高い水準を目指して新たな道を拓いてゆきます。本学の歴史を綴るのは諸君達です。更なる発展の力となってほしいと願っています。

 さて,戦争と科学技術の世紀とも呼ばれる20世紀は,世界中を巻き込む2度の大きな戦争や地域の紛争の絶え間が無く,一方で,第2次大戦が終結するころに出現したコンピューターの目を見張るような進歩に伴って,科学技術の大発展が起こりました。東西の冷戦構造の崩壊は政治,経済,産業構造を含むあらゆる分野で世界を大きな転換期に導こうとしています。そして社会は単一の文明下にある世界の究極の姿とも思えるグローバル化に向けて速度を速めています。社会は急速に変わってゆきます。技術もまた絶え間なく進歩してゆきます。諸君はその速さに追随し,さらに自らの進歩を創り出す力を身に付けなければなりません。

 日本に初めて鉄砲が渡来したのは1543年のことであります。種子島に届いた鉄砲はわずかに2挺であったといわれますが,工匠たちはこの2挺をもとに技術を手中にし,鉄砲は瞬く間に日本全国に伝わりました。30余年後の1575年,織田信長は長篠の戦いに3000挺の鉄砲を揃え,当時最強といわれた武田勝頼の騎馬軍団を打ち破りました。この歴史に残る事柄は,一つには武田勢は技術がもたらす社会の変化を見損ねていたこと,そして変化に対応できないとき,強大を誇る国も容易に滅びるものであることを,二つにはこの当時にこれ程急速に大量の鉄砲を生産する技術を持ち得たのは,既に刀剣の輸出国になるほどに発達した刀鍛冶の技術,鍛造と焼き入れの技術の蓄積があったからであること,を教えています。

 新しい技術を生み出すのは,人にとっての必要性,人の幸福を願う心,あるいは人の欲望が原動力になりますが,その技術を実現するのは経験の積み重ねであります。高度に発達した中での技術の創成には確実な技術の蓄積が欠かせません。思わぬものを偶然に発見する才能を指す言葉に“セレンディピティ”というのがあります。セレンディプの三人の王子が捜してもいない宝物を偶然に発見するお伽話から出た言葉で,技術者としては欲しい才能ですが,技術上での発見は,それを有用と見極める力があって初めて起こり得るもので,単なる偶然の発見はあり得ません。新しい技術の創生は知と智の蓄積があって初めて実現するのです。

 諸君は数年の後には実社会に出て,科学技術の更なる発展を促進する役目を担います。常に進化してゆく技術に携わる者は生涯に亘って常に学び,知識を新たにし,活動の領域を広げてゆくことになります。大学は諸君に技術者,研究者が必要とする基本を提供します。学ぶべきことは多くあります。そして,人の能力は様々です。得手,不得手があります。得手のときは駿馬の駆けるがごとくに素早く学び修め,不得手には忍耐強く歩を進めます。“驥(き)は一日にして千里なるも,駑馬(どば)も十駕(じゅうが)すれば,則ち亦たこれに及ぶ”です。多くの経験を積み重ね,諸君自らを支える基盤となる知識を蓄え,智慧を磨いてください。

 諸君は若い日の数年をこの長岡で過ごします。それは諸君にとって貴重な青春の日々であり,新しい友を得,新しい経験を積んで,自分を作り上げる大事な期間でもあります。シェークスピアの戯曲「お気に召すまま」の中に“時というものはそれぞれの人間によって,それぞれの速さで走るものなのだよ”という言葉があります。自分の時間を使うのは自分,自分の歩調で着実に歩んで,豊かで実りある日々を過ごされるよう祈っています。