VOS,No.111

 研究トピックス [Back]

セラミックス製造研究の新規アプローチと研究手段
植 松 敬 三
(化学系 教授)

 セラミックスはエンジンなど,高い温度と力が加わる部材用に最適な材料と期待されている。世界的にその研究は活発だが,現在でも,部材の強度が理論値よりはるかに低い,予想外の破損事故がある,製造中に部材が変形して設計どおりの形状にならない,非常に高価であるなど,重要な問題を多数抱えている。これら問題を何とか解決する必要がある。
 一流メーカー製品でも完璧でないのは,製造工程の制御が不十分なためである。しかし,これは研究努力を怠ってきたせいではない。学界や産業界は製造の改良に必死になって取り組んできたのである。
 ある日,問題解決の進まない原因が,問題への取組み方や研究方針そのものの欠陥にあることに気付いた。そこで材料の製造や破壊現象の基本に戻り,セラミックスの信頼性を増す研究を新規な観点から始めた。次に,その内容を紹介する。
 まずセラミックスの製造では,原料粉体を所定の形に成形したもの(成形体)を高温で焼成する。得られた製品には,外見的には目立った傷は見当たらないが,その内部には,製造上の種々の不具合,特に成形体中の傷から生じた大小さまざまな傷が含まれる。現状では,たとえ一流メーカー品でも傷のないセラミックスは存在しない。
評価対象領域の違いと意義
任意の部位を調べても破壊源や材料強度の情報は得られない
破壊源を含めて全体的な構造を調べることが重要
 材料に外力が加わるとき,傷の周囲には応力集中現象で特に高い応力が発生し,これが破壊起点となる。このとき一般に応力集中は傷が大きいほど激しいため,材料強度を決める傷(破壊源)は材料中の最大・最悪のものである。現在の材料では,破壊源の周囲には材料に加わる平均値の百倍程度の応力が加わると見積もられている。傷さえなければ,セラミックスの強度は現状の百倍程度高いのである。また材料強度が変動するのは,最悪の傷の悪質さ(寸法)が各材料毎に異なるせいである。
 したがって,材料の強度を増し,強度変動を減らすには,まず破壊源であるそれら材質中の大型傷を詳しく調べ,それらの形成原因を解明し,さらにこれを製造プロセス,特に成形体の製造までのプロセスにフィードバックして,その形成を防ぐことが基本のはずである。しかし,従来の研究への取組みはこうではなかった。

 従来の研究法は,金属やプラスチック材料での研究法を踏襲したものである。つまり,材料の一部を高倍率の電子顕微鏡やその他の高度分析機器で徹底的に解析し,その結果から材料全体の性質を説明するものである。しかし,この研究法では,対象の試料は小さく,破壊源になる大型傷はその中にはまず見つからない。大型傷は特殊で極めて少数なのである。大型傷のないところをいかに詳しく調べても,解析結果が現実の材料強度を反映しないのは明らかである。製造技術の改善が遅れたのは当然である。
 大型傷を検出するには,対象試料の全体を調べなくてはならないが,ここで問題が生じた。材質全体を調べるには従来,X線トモグラフィーや超音波顕微鏡などの最先端の機器が使われている。しかし傷の寸法は,50−100ミクロン程度であり,それらの機器では小さすぎて調べられないのである。これまで大型傷への関心が低かった大きな原因として,適切な評価手段がなかったことも挙げられる。
浸液で透明化したアルミナ成形体
アルミナと同じ屈折率の浸液のとき(1.76),成形体は最も透明となる
 そこで,新しい評価法として,成形体の内部を光学顕微鏡で調べる浸液透光法を考えた。これは,殆どのセラミックスが透明物質であり,成形体が不透明なのは粉体粒子表面での光の散乱に起因する点に着目したものである。すなわち光学理論によると,光の散乱が起きるのは,屈折率の異なる物質の界面である。したがって,成形体をそれと屈折率の同じ液体中に浸せば,粉体−液体界面での光の散乱が消え,成形体は透明となると考えた。試してみると,大成功であった。その内部を普通の光学顕微鏡で調べると,写真に示すとおり複雑な構造がわかる。黒く見えるのは傷である。この方法では,数ミクロン以上の傷が明瞭に見え,その発生の原因を追求可能となった。本方法では,高価な装置を用いずに,従来法よりはるかに高精度な大型傷の検出・評価を初めて実現できた。
 今では,赤外線顕微鏡,偏光顕微鏡,レーザー蛍光走査型顕微鏡等の技術を組み合わせたさらに高度な評価法を種々開発し,それらを研究ツールに,セラミックスの工業的製造法の研究を進めている。得られる成果は,当然ながら世界で最初かつ最高であり,セラミックスの工業的生産における問題点を次々と解明し,その改善をリードするものである。
成形体と焼結体の構造
成形体中には多くの傷が存在し,焼結体内部に傷となって残る