VOS,No.112

 
  ほ〜っとするはなし
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教職員の趣味・特技,休日の過ごし方,ふるさとの紹介などをするコーナーです。

趣味としての天体観測
今 井 栄 一 (生物系 技官)

 以前から天文に興味を持っていたのですが,観望だけに終わらず何かテーマを決めて観測をしようと考えていた時,天文雑誌に載った記事が目に留まりました。そこには海上保安庁水路部(現在は海洋情報部)の星食観測が紹介されていて,そのことがその後本格的に星食観測を始めるきっかけとなりました。観測対象が決まったことで望遠鏡を含めた観測室の構想もその時にほぼ固まりました。それから20年ほど経過した2001年に自宅の増改築を機に天体ドームを載せた観測室が屋上に完成しました。天体観測は私にとっては趣味・道楽の世界ですが,周りからは趣味の域を逸していると言われています。
 星食はなじみが薄いと思いますので紹介します。月は天球上を西から東に向かってほぼ1ヶ月で一周し,この運行の過程で月が背景にある恒星を隠す現象が頻繁に起こります。これ星食(せいしょく)あるいは掩蔽(えんぺい)といい,観測では現象が起った時刻を測定します。現象が起った瞬間,月の視位置(天球上の座標である赤経・赤緯)は恒星の視位置から月の視半径だけ離れたところにあるわけです。星食は月と星の視位置と観測者の位置関係で起こるため,地域性を活かしたアマチュア向けの観測対象といえます。観測した結果は海上保安庁海洋情報部にある国際星食中央局(ILOC)に送ります。ILOCは世界中の星食観測結果を収集し,月の位置の解析や星食観測結果の管理などを行っている機関です。
 星食観測は街中の明るい空でもできます。なにしろ観測する星のすぐそばには月が晧々(こうこう)と照っていて,空が明るいことなど取るに足らないことなのです。それよりも観測のしやすさから望遠鏡が身近にあることの方が重要で,星食観測に限れば星のよく見えない自宅であっても,そこに観測室を設置することは妥当な選択なのです。家の中からスリッパ履きのまま観測室に行ける身軽さと,スリットを開ければすぐに観測を始められる手軽さは特筆ものです。
 天体ドームの直径は3mです。スリット扉が横にスライドして天窓が開き,ドーム全体が360度無限回転します。回る屋根でテレビ局の取材を受けたりもしました。観測機材は25cm反射と10cm屈折の望遠鏡が赤道儀と呼ばれる架台に載っており,二軸モーター駆動で星を望遠鏡視野に導入し追尾します。望遠鏡は星食観測向けの仕様であり,星雲や彗星などの淡い天体の観望には不向きとなっています。
 屋上に続く階段を上がって観測室のドアを開けるとそこは異空間です。ここは宇宙という極めて普遍的な現実に接する場でありながら,現実社会の連続である日常とは一線を画する非日常的な秘密基地を目指しています。
天体ドームを載せた観測室(屋根の上の隠れ家)   観測室に据え付けた天体望遠鏡