VOS,No.113

 研究トピックス [Back]

長大吊形式橋梁のケーブル安全率はもっと下げられる
長 井 正 嗣 (環境・建設系 教授)

吊 橋
斜 張 橋
 海峡を渡ろうとすると,良く見かけるふつうの橋とは異なり,ケーブルを使った橋の独壇場となる。本州四国連絡橋にそれらの多くを見ることができるが,これを“吊形式橋梁”と呼んでいる。交通路となる桁を支える区間(スパン)が300mを超えて 長くなると,ケーブルを使った吊形式橋梁が他のタイプの橋に比べて経済的となる。この吊形式橋梁の双璧として“吊橋”と“斜張橋”が挙げられる。吊橋は主ケーブルを張り渡し,鉛直に垂らしたハンガーで交通路となる桁を吊る。斜張橋は塔から斜めにケーブルを張って交通路を支持する。斜めに桁を吊ることから桁には圧縮の軸力が導入される。
 現有の,かつ入手の容易な材料を使うとして,吊橋は3500mくらいまで,斜張橋はお金に糸目をつけなければ2000m以上でも建設は可能であるが,1200〜1400mくらいになると吊橋より高価になって建設は困難となると著者らは考えている。現在,世界一長い吊橋は明石海峡大橋で,そのスパンは1991m,当分この記録は破られないだろうと言われている。一方,斜張橋の世界一は多々羅大橋で,スパンは890mであるが,中国にはこれより長い橋の計画が2橋あり,そのうちの1橋(1018m:香港)はまもなく建設のための入札が始まると聞いている。世界一の実績のみならず,これまで香港では青馬大橋(吊橋),汲水門橋(斜張橋)の建設に参画した実績をもつ我が国の参入が期待される。
 中国では,長大橋プロジェクトが目白押しであるが,日本はこの方面のプロジェクトは一段落した状況にあり,中小スパンのふつうの橋を対象とした一層の合理化やコスト縮減対策が活発である。長大橋の分野では,安全で更に経済的なシステムの検討が行われている。例えば,吊橋で今一番注目されているのは,風に対する安定性を確保するため,交通路は鋼製の格子構造として風が吹き抜けるようにする。よく見かける舗装もなく,極端な言い方をすると,金網の上を,海を眼下に車が走ることになる。
 さて,著者らが検討したのは相対的に高価な材料であるケーブルの安全率を下げられないか,というものである。これまで,構成要素である塔,桁やケーブルの安全性は,作用荷重(S)が安全率(γ)を考慮した強度(R/γ)以下となるように単独で照査され,それぞれの強度の相関は無視されていた。著者らのグループは,それぞれの部材強度の相関を考慮すると,大きな荷重に対して,橋がどのように崩壊していくのかをコンピュータでシミュレーションすることとした。
 まず,斜張橋についての結果から説明する。これまでの塔,桁,ケーブルで設定されている安全率の組合わせのもとでは,塔近傍において桁の塑性域(一定の応力状態でひずみが増加する:図参照)の広がりが先行し,桁軸方向の抵抗力が失われ,その方向に押しつぶされるような崩壊モードを示す。ケーブルの安全率を低く設定すると,ケーブルの降伏(伸びが急増する)が先行して,桁を吊る能力が失われ,圧縮を受ける桁が折れ曲がる崩壊モードを示す。現在まで,安全率をケーブルの破断に対して考えていたが,降伏現象の方が重要であること,また,詳細な説明は省略するが,現行の安全率2.5を2.2に下げても終局強度上は問題が生じない。すなわち橋全体としての安全率が,橋の設計で基本的に用いられている1.7以上確保できることを明らかにした。なお,斜張橋用ケーブルの安全率の見直しは次期の道路橋示方書の改定にむけた重要課題として挙げられている。
 次に吊橋については,明石海峡大橋の約1.5倍のスパンをもつ1500+3000+1500(m)モデルを用いて,安全率をパラメータとした同様のシミュレーションを行い,斜張橋と同様に安全率の組合わせに応じた崩壊モードを明らかにした。明石海峡大橋のケーブル安全率には,これまで用いられてきた値2.5より小さい2.2が使用された。また,ハンガーに2.5が,塔には1.7が用いられた。一方,著者らが最終的に提案した安全率の組み合わせは,ケーブル,ハンガー,塔に対してそれぞれ,1.8,2.2,1.5である。これによって総鋼重は,これまでに比べて15%位低減できる。また,橋の基本の安全率1.7は確保されている。この安全率の組み合わせと,構造的には先の鋼製格子構造を組み合わせると大幅なコストダウンが期待できると思われる。現在,ケーブルの安全率1.8をオーソライズすべく公団関係の委員会が継続中である。