VOS,No.114

 特集/技大と高専 [Back]

高専と技科大とのつながり
高等教育界のプロジェクトXを目指して
柳   和 久 (高専広報検討プロジェクトリーダー・機械系 教授)

 我が国の高専を抜きにして本学の過去と現在,そして未来を語ることはできない。「実践」,「創造」,「産学共同」という独自の教育研究システムを前面に押し出してきた老舗としては,国立大学の独法化という変革期を迎えても及び腰のへつらいは避けるべきであろう。
 システムには一般に入力が与えられ,そして出力が取り出される。本学の場合に入力を高専出身者(教員も含む)とすると,出力は卒業生であり,研究成果や社会貢献となる。それらの出力がいかに評価されるかが今の大学人にとって最も切実な問題と化している。本学の足跡をたどると,上記の独自システムは自己評価を行う上で実に有効かつ巧妙な企てであったと言える。パイオニアたちの先見性にあらためて敬意を表するものである。ところが最近になって入力に変化を感じることが多くなってきた。全国的な傾向かも知れないが,入学者に志気が感じられないのである。その原因を探ることも目的に含め,現学長の掛け声で学内に「高専広報検討プロジェクト」が設けられた。初代のリーダーとして丸山久一教授が任命され,教官自らが全国の高専を訪問することが教育業務と見なされるようになった。高専教員との情報交換に始まって,高専教育の実状理解と本学の紹介,更に受験者の勧誘を目標に掲げ,高学年生を対象に出前授業を行うこともプロジェクトの活動方針に加えられた。物事には裏表があるもので,押売り的な行為と異議を唱えられる場面も少なくなかった。しかしながら,数年を経過して逆に講演依頼が寄せられることも多くなり,総じて好評を博していると言える。出前授業の制度は,その価値と効果が認められる限り継続させる必要があろう。
 他方で,高専と本学の研究交流の活性化を図ることを目的とした「高専―長岡技科大教官交流研究集会」が毎年あるいは隔年に系別で開催されている。多様なテーマ構成であるが,両者の連携をターゲットにしていることは共通している。平成元年に初回がスタートしているので,この企てには相応の存在理由と意義があったものと考えることができる。高専教官には本学の実状認識の好機となり,本学教官にとっても高専教員と人的ネットワークを形成する絶好のチャンスとなる。専門領域を越えた高く広い視点から教育研究に関する情報交換が行える数少ない集会に位置づけられている。
 これら二つの試みを通して気づくことは,高専が不十分な数の人的資源のもとで生徒・学生の心身の育成から知識と技能の伝授,さらに基盤的研究の実践までを網羅していることである。教師は著しく多忙であり,孤立的な雰囲気すら漂う。それに比べて本学は半ば成育した学生をスタッフに仕立て,研究活動及び社会との連携に偏重を来たしている。ややもすれば高専出身者の特性を意識せずに学術至上主義に陥ることもある。けれども,本学に入学した大方の高専出身者はその居心地の良さに満足しているように思える。卒業後のアンケート結果に本路線の特長と成果が反映していることは大きな救いである。
 独法化の波に呼応してJABEE(日本技術者教育認定機構)に対する取り組みも高専と技科大の関心事になりつつある。高専の専攻科に対する技科大の3,4学年における教育プログラムが取り糺(ただ)されるが,本学の場合,全国の高専専攻科と整合性を保つことは不可能に近い。むしろ,学部・修士一貫のカリキュラム編成を全面に押し出し,その利点を強調することを是とすべきであろう。
 いずれにしても我が国の高等教育機関は荒波に立ち向かわざるを得ない状況下にある。競争原理に従って自らを活性化,改革する努力が強要されている。その渦中にあって高専―技科大路線をどのように整備,変革していくかが問われている。まずは本路線において教育研究プロジェクトに関する何らかの旗揚げが必要となるのではなかろうか。具体的な策を講じるためにも,前述した高専訪問/出前授業と教官交流研究集会は続行しなければならない。また,教員の人事交流は今まで以上になされるべきであろう。教育活動重視の高専において,自己啓発のためのリフレッシュ研究活動は必要不可欠のものである。教員の数にゆとりがない高専の現状においてこれを実現するためには,技科大からのスタッフの補完が絶対に必要である。「共存共栄」は両者の犠牲に負うところが多いと聞く。弱肉強食ではなく,難点を相互に補い合う自然体の関係が望まれる。確固とした教育研究事業に位置づけられることを願っている。