VOS,No.116

 特集/新入生歓迎!! [Back]

学長告辞
全ては基礎から
学長
服 部   賢

 新入生の諸君,入学おめでとう。長岡技術科学大学の教職員一同を代表して,本学に入学・進学された諸君を歓迎し,お祝いを申し述べます。今日ここに集う諸君はいずれも工学そして技術を学び究めようとする志を持つものであります。諸君の学が成って有為の人となるか否かはいつにかかって諸君の意欲にあります。強い意志をもって勉学につとめられるよう期待します。

 大都会の喧騒を離れ,緑濃い豊かな自然の中に位置するこの長岡技術科学大学は,人類の福祉に貢献する技術を担う創造性豊かな技術者の養成を目的に,従来の大学の枠組みを超えた構想のもとに設立されました。昭和53年4月,この地にキャンパスを開いて第一期生を迎え入れてから25年,学部・大学院修士課程一貫教育を柱に,産業界との強い連携のもとで行われる実務訓練を初めとして,他大学に類を見ない独特の教育システムを構築して参りました。昨秋“21世紀COEプログラム”の一拠点として選定されたことからも知られる高い研究能力と相俟って,本学が個性溢れる大学に成長したことは自他ともに認めるところであります。

 さて,20世紀後半に急速な進歩を遂げたコンピューターは,18世紀の欧米に産業革命を引き起こす要因となった熱エネルギーの変換技術を凌駕する技術革新をこの社会にもたらしました。高度に発達した工業技術とそれによって得られた経済力は,軍事そして宗教に起因する社会情勢の変化をもその背景としつつ,地球全域を取り込む巨大な技術・情報社会を作り上げました。

 諸君は数年後実社会に出て,科学技術の開発・研究にたずさわる事になります。膨大な情報の溢れるこの社会で技術の開発を担う諸君にとって,この大学で身につける基礎・基本が生涯の成長を支える土台になります。肥沃な大地が緑を繁らせ,果実を実らせるように,諸君は自らを技術の樹,果実を実らせる豊かな土壌に育てて欲しいと願っています。

 およそ140年前,工業の近代化に乗り出した日本は,急速に技術力を高めてまいりました。特に最近50年間の工業技術の進歩は目覚しく,今,その技術力は世界的に先端の位置にあります。しかし,この工業力の進展は全くの白地に描かれたものではなく,日本が近代化に乗り出したとき既にその土台となるべき基礎を備えていたのです。

 1万2千年前,人類は初めて火を使って道具を作りました。それがこの日本で生まれた縄文土器であることは諸君も良く知るところであります。縄文時代はおよそ1万年続く高い文化をもつ文明期でありました。本学に程近い馬高遺跡から出土した4500年前の火焔土器からもその文化の高さを垣間見る事ができます。この文化が日本の文化の発達の素因になったであろうことは容易に考えられる事であります。
 その後の日本は土着の,あるいは外来の技術を消化して日本独自の技(わざ)を創り上げてきました。日本刀に代表される金属加工技術,法隆寺に見る建築技術やからくり人形における機構の設計技術を例に挙げるまでもなく,極めて優れた技術・技能を作り上げ,一方で,紫式部や狩野正信らに代表される高度な文学や絵画をもつ高い文化がありました。18世紀には武家の子弟の教育に当った藩校や一般庶民を対象とした初等教育機関である寺子屋があり,国学,洋学を教授する私塾が存在して,教育は広い範囲に浸透していました。こう言った事々が工業近代化の土台であり,近代技術という樹木の発芽,成長を促す土壌になったことは言うまでもありません。

 基礎,基本の重要性は国にとっても個々人にとっても全く同様であります。室町時代の能役者,世阿弥は能の伝承,訓練を“守・破・離”と言い表しています。守は伝統を守る,これまでに大系化され基本とされる技あるいは学問原理の踏襲,即ち基礎・基本の徹底を意味します。また,ピカソがデッサンの力が非常に強かったことは良く知られたことであります。画家にとってデッサンこそ基礎・基本であり,画家として大成した人たちは例外なくデッサンを十分に訓練した人たちであるといわれています。技術も同じであって,基礎を疎かにし先端の部分のみを齧ってもそれ以上の進歩は望めません。

 諸君は小学校に始まって,これまでに多くのことを学び,経験してきました。それを基礎にして,さらに強く幅広い基礎を築いてゆきます。基礎の訓練は楽しさよりはむしろつらいものでありましょう。そのつらさを克服して,そこに技術の道が開けます。若い日の努力は将来に計り知れない大きな力となりましょう。
 本学には年齢も,経歴も,出身地もさまざまな人々が集い,切磋琢磨することになります。在学生,教職員,地域の方など多様な人々との交流は,諸君が自己を形成してゆく上に貴重な糧であり,経験になります。この長岡の地で過ごすこれからの数年が,若い諸君にとって悔いのない充実した日々となることを期待しています。