VOS,No.116

 特集/新入生歓迎!! [Back]

新入生へのメッセージ
「桜」と「技術科学」
副学長(研究担当)
飯 田 誠 之
 入学おめでとう。諸君は希望に満ちてこの日を迎えたことと思います。大学での新しい生活が始まります。これを自分の将来に繋げるためには自分自身を磨く努力をすることはもちろんですが,良い友人関係と良い師弟関係を作ることにも心を砕いて下さいというのが一つ目のメッセージです。良い友人関係,良い師弟関係は大学を離れてからもきっと諸君を支えてくれることになるでしょう。更にこの大学に入学した諸君には卒業・修了までにぜひ自分で考えてほしい事柄があります。変な題をつけたこの拙文の目的はこれを説明する為です。
 時は春,春は“花”の季節です。花と言えば多くの人は桜の花を思い浮かべるでしょう。この桜についてドナルド・キーンの著書(日本人の美意識,金関寿夫訳,中央公論社)の中から部分的ですが,次のパラグラフを少し引用させて貰うことにします。
 日本人が最も好む花が桜であることは,言うまでもない。その理由は,まさに花の開花の時期が,殆どうらめしいほど短い上,盛りを見とどける前に,花が散ってしまわないかという恐れが,ひどく大きいからである。ただの数日間の開花を楽しむために,それでも日本人は,この果樹のくせに実を結ばず,代わりにいやらしい毛虫を沢山寄せ付ける樹に,それこそ首ったけなのである。西洋人が一般的に希求して来たことは,芸術的不滅を成就することであった。そのため西洋人は,ほろびることを知らぬ大理石で,記念碑を建てて来たのだ。皮肉にも,世界で最も古い建物のいくつかは日本にあるのだが,日本人は「ほろび」を見越して,建物を建てた。
 法隆寺が世界最古の木造建築物であることは広く知られています。科学も不滅のあるいは不変の真実を追究します。その点では上述の西洋人の一般的希求に添うものです。一般に科学技術と呼ばれるものはこのような科学をベースとした技術です。今日科学技術発展のマイナス面がしばしば問題にされますが,本学が標榜する技術科学とは一般的な意味の科学技術ではありません。人類に負の影響を与えたりすることのないもっとソフトな科学が,例えばいわばドナルド・キーンの指摘するような日本人の意識をも取り込んだような,言い換えれば“ほろび易さ”をも考えに入れたような技術の科学があってもよいのではと私は考えたりしています。
 日本から,あるいは東洋から,西洋とは異なる視点を含んだ新しい科学を創出し,世界への貢献を考えてほしいというのが諸君へのもう一つのメッセージです。どんな視点を持つ科学を創出するのかは自分でぜひ考えてみてください。学部であれ大学院であれ本学を巣立つ時には自分の専門を確かなものにすることに加え,私の技術科学はこれだよと言えるものが持てるようになっていることを願っています。