VOS,No.120

 卒業・修了を祝して [Back]

「成るようにはなる。成るようにしかならない。」
副学長 教育担当 西 澤 良 之
 皆さんの,大学ご卒業,大学院の修了を心よりお祝いします。
 進路は,進学,就職など人によりそれぞれ異なりますが,今,皆さんは人生の1つの交差点に差し掛かり,新しい明日に向かって旅立とうとしています。
 私自身は,この旅立ちは,果てしなく広がる新雪の曠野に,初めて自分の足跡を記していく,そのようなことではないかと思っています。
 他方,進学であれ,就職であれ,あらかじめ用意されたルートのあれこれを選んで,頂上に向かう営みとも考えられます。遠廻りではあるが比較的堅実なルート,頂上には直近であるが急峻で危険を伴うルート,そもそも頂上など目指さず,平坦なふもとを目指すルートなどの中から,自分の身の丈にあったルートを選んでそれを辿る。そう考えてもあながち間違いではないようにも思われます。
 いずれの考え方によって,自分の未来を作っていくにせよ,常にすべてが自分の思うとおりになるとは限りません。むしろ社会はどうもその逆にできているようです。ベストと信じた考えが,ずたずたにされ,全く意に添わない取り組みを求められるなどは日常茶飯事だと思っていたほうがいいかもしれません。進むも退くもままならず,「もうどうにもならない!」と絶望感に打ちひしがれることもきっとあるでしょう。
 今から30年程前,私は韓国の日本大使館で文化広報を担当していました。今でこそ,ワールドカップの共催が成功するまでに,日韓関係は成熟していますが,当時の対日感情は極めて悪く,何をやろうにも壁また壁という状況にありました。文字通り「もうどうにもならない!」という事態に再三遭遇しました。
 そのような度毎に,当時の駐韓国日本大使の須之部量三(すのべりょうぞう)氏はいつもこのように言って励ましてくれました。
 『物事にどうにもならないということはありません。必ず,成るようにはなります。また,成るようにしかならないものです。だから,私達は,自分達に出来る限りの努力をする。それしか仕様がないし,それで良しとするしかありません。』
 録音していたわけではないので,このとおりであったかどうか確かではありません。しかし,この言葉は,その後幾度か「出口なし」というような状況の中で,絶望感に襲われそうになった時,柔和な大使の風貌とともに思い出され,自分なりの突破口を見つけ出す助けになりました。
 自分が良しとする目標を定め,その実現を目指してとことん自分を追い詰めていく。人間が何事かを為そうとする時,そういう取り組みが不可欠です。「プロジェクトX」に取り上げられるような,成功者といわれる人々は,少なからずこのような,岩をも砕くような固い志を持っています。皆さんもぜひそうあって欲しいと思います。それでもなお,うまくいかないこともあります。そんな時,「どうにもならない,もうおしまいだ。」と絶望せず,しなやかに生きて欲しいと思って須之部氏の言葉を紹介した次第です。皆さんの健闘をお祈りします。
 (余談になりますが、須之部氏は駐韓大使を勤められた後退官され、大学で教鞭をとっておられましたが、その後、外務省のたっての要請で外務省事務次官に就任されました。大変異例な道をたどりましたが、1つの頂きを極めたと言えるのではないでしょうか。)



転換期の船出に
長岡市長 森   民 夫
 長岡技術科学大学に学び,修了をまた卒業を迎えられるみなさんに,心からお祝いを申し上げます。
 みなさんの多くは,修了等の後には長岡のまちを離れ,全国にそして世界に,活躍の場を求められることと思います。そこで、大学を後にするみなさんには,ぜひ「米百俵」のふるさと長岡の「応援団」になっていただきたい。また,留学生のみなさんには,母国に帰ってからも長岡のまちを忘れずに,国際交流の掛け橋になっていただきたいと思います。
 さて,21世紀の幕開けともいうべき時期を長岡技術科学大学で過ごされたみなさんは,新世紀の夢を抱きながら学業に打ち込んでこられたことと思います。しかし,そんなみなさんを取り巻く日本の社会は,今,ある種の閉塞感におおわれているといわれています。その閉塞感の背景には,深刻に揺れ動く国際情勢や企業活動における国際競争の激化,長引く景気の低迷などがあるでしょう。しかし,その閉塞感のなかにあって,過度に悲観的に振舞うことは,過度に無関心でいることと同様に,決して生産的な態度ではありません。
 新産業の創出や新技術の開発が緊急の課題となるなど,国際化,自由化,情報化の波に洗われる日本の産業構造は,今,大きな転換期を迎えています。もちろん,転換期を迎えているのはひとり産業界のみではありません。教育制度改革の動き,そして独立行政法人化に象徴される国立大学の制度改革などもそのひとつのあらわれです。また,市町村合併の取り組みによって更に加速されるであろう地方分権の流れのなかで,国・県・市町村という行政の枠組みもまた,大きな転換期を迎えつつあります。
 では,直面するこうした事態に,私たちはどのような態度で臨むべきなのでしょうか。
 変化は避けて通れないという過剰な意識を持つあまり,思い余って変化への道を閉ざしてしまうという反応もあり得ます。しかしそうではなく,少し役所的な言いまわしになりますが,むしろ権利として今変ることができるのだという意識を持ち,肯定的にこの事態に臨むことこそ大切だと私は考えます。
 工学系に学んだみなさんに馴染みの表現を用いるならば「ある系を構成する要素のうちで何が可変であり,何が不変であるかを冷静に識別し,変化にふさわしい最適状態の組み合わせを見出してその系に働きかける」という態度が求められているのです。
 21世紀は,多様なビジネスキャリアや幅広い交友関係,海外経験などを持つ人たちが,地域に情報や知恵をもたらす時代です。その人びとの経験や情報を,広い人脈や交友関係を,行政の政策形成に積極的に活かしたい。あるいは新しい産業を興すきっかけとしたい。異なる組織や産業分野に属する人たちがまちづくりのアイディアや知恵を競い合う。私はそんな「交流都市・長岡」の姿を想い描きます。
 長岡の風土と人とまちに親しみ,この大学に学び,そして今船出をしようとする修了生・卒業生のみなさん。みなさんが培った交友関係に,これから身につけるであろう幅広い経験と育むであろう人脈に,その多様な情報のチャンネルに,長岡市は大いに期待しています。
 この大きな転換期の只中にあって,みずからの船で漕ぎ出すみなさんを,私は祝福したいと思います。
 「VOS精神」とともに培った技術力と知性によって,産業の各分野にあって,また,企業・行政・NPO等の各セクターにあって,存分の力を発揮されますよう,長岡市民とともに心から応援しています。



若人の旅立ちと羅針盤
国立高等専門学校協会会長・宮城工業高等専門学校校長 四ツ柳 隆 夫

1.「先を見る目」を目指して
 春は若人の旅立ちのときです。卒業生や修了生の皆さんが,それぞれにこの長岡のキャンパスライフに多くの感慨があることでしょう。旅立ちの前途を祝福する言葉として,「心の羅針盤」を贈ります。「先を見る目」のことです。

2.大航海の時代から情報化社会まで
 海の向こうに待ち受けるものが断崖から落ちる滝であるかもしれないと思われていた時代に,大航海に乗り出した探検者達がいました。未知の海を行く人たちの道標は,羅針盤でした。羅針盤のルーツは,中国の指南車,東洋の思想と工夫がもたらしたこの機械が,地球上を駆け巡る自由を人類にもたらしました。迷信の暗闇からの脱却を目指して,学問の府である大学は「心の自由のために」を掲げていました。
 パイオニア達の活躍のおかげで,地理的発見に限らず学問,技術等の領域をも含めて,人類は膨大な情報・高次元情報空間を生み出しました。その質と量は,かなり領域を絞っても,個人が生涯かけて学び取ることができる水準を遥かに超えています。このために,かえって先の見えにくい社会が出来上がってしまいました。人やモノの移動の速度も,通信の速度も,そして巨額の資産の移動の速度をも含めて,あらゆる面で従来の概念を超える状況になりました。同時に,学問でさえ,それ自体の方法論としての論理的限界を知るに至りました。人間の手に余る世界を人知が生み出してしまったのです。その一方で自然環境もまた,その有限性を顕にし始めています。

3.情報の大海への旅
 情報の大海を前にして,先を見定めてそれを渡っていく方法を見出すことは容易なことではありません。大航海時代の羅針盤に相当する情報の大海を渡る羅針盤とは,如何なるものでしょうか。それは「先見性」・「方向感覚」です。これは感性の一種であり,資質の仲間でしょう。この感性を磨くことがこれからの技術者にとって不可欠です。羅針盤の発明のルーツが東洋にあったように,東洋文化の中で育った日本人の感性が先を見る羅針盤の可能性を秘めています。過去の大きな仕事の幾つかがこれを物語っています。あえて例示しませんが,これを見出すことを楽しんでください。
 これを身につけるヒントは,「方向感覚のよい人」と逢うことです。人は情報の塊です。人は皆,自分の見識という方向感覚を持っています。直接会うのが一番ですが,本の世界で逢うことも有効です。また,人の書棚を見て回るのは特に有力な方法です。これはセットになった情報の力の根源だからです。
 やはり例を一つ挙げましょう。有機合成の基本的手法は優に3万通りを超えています。これは生涯掛けてもマスターできない量です。しかし,この中の50通りの手法を自在に使いこなせたら世界の一流とされています。3万と50の落差をどのように考えたらよいでしょうか。これこそプロが選んだ情報のセットの力を意味しています。これを選び出す上で,学問領域のこれからに対する先見性が必要だからです。

 時代の先を読む力があってこそ膨大な情報を資源として生かすことができます。ここを旅立つ諸君が,優れた方向感覚を持つエンジニアになることを期待しています。