生物エネルギー工学大講座(生物運動機構学研究室)
 われわれが目にするもっともみじかな生き物の性質は、「動く」事です。この仕組みは原生動物の遊泳の仕組みから、われわれ高等動物が走る仕組みまで、さまざまなタンパク質分子がかかわっています。しかもその大きさは数ナノメートル程度しかなく、現在脚光を浴びているナノテクノロジーのなかでももっとも小さな機械と言えるでしょう。この分子機械はとても小さいばかりでなく、きわめて高性能でもあります。この機械は生体物質の持つ化学エネルギーを力学エネルギーに変換する「マシン」ですが、そのエネルギー変換効率はあまりの小ささのため正確に測る事は困難ですが最近の研究によると、実に100%なんです!このナノマシンがどのように機能しているのか?なぜ100%の変換ができるのか?
  人類の作った機関の殆どは熱機関ですが、このナノマシンは普通、熱を発生しません。しかし寒いと鳥肌が立つように、必要に応じてこの変換効率を変えて、熱を発生させることもできるのです。この夢のようなナノ運動マシンはどのような機構で運動を実現してるのでしょうか?本研究室では、ナノサイズの分子機械を生体中と殆ど同じ条件で、機能しているところを顕微鏡で観察しています。最先端の技術と新しい理論の元、このナノマシンの動作原理が明らかになる日も近いでしょう。

1.1 運動性細胞分野
  「分子モーター」と呼ばれるこのナノマシンは、ATP(アデノシン三リン酸)の持つ化学エネルギーを消費する「エンジン」に相当する部分と、動力伝達を制御する「クラッチ」のような部分からなっています。私達はこの変換過程を大きく分けて三つの立場から研究を行っています。

(1) 化学・力学エネルギー変換エンジンの分子機構
 われわれは、このモーターナノマシンがこのようなスーパーマシンである秘密は「ゆらぎ」にあるという事を見つけました。水中ではナノスケールの物質は激しくでたらめなブラウン運動をしています。この運動を一方向にそろえるだけで、わざわざ動かそうとしなくても、早くかつ力強く動かすことができるのです。問題は方向をそろえる手段です。現在われわれはこの『方向をそろえる手段』について、どのように働いているのか、どうやって揃えているのか、などを中心に分子の揺らぎ解析を行っています。

(2) 収縮・弛緩の調節クラッチの分子機構
 運動を実現している身近な機械として自動車があります。運動を停止はブレーキとアクセルで行いますが、停車中はクラッチを使います。実はこの「分子モーター」と呼ばれるナノマシンにはクラッチがついているという研究結果があります。われわれはこの「分子クラッチ」の実態とどのような時に、どうやって作用するのかを研究しています。クラッチ自身も「トロポニン」「トロポミオシン」と呼ばれる数十ナノメートルの細長いたんぱく質複合体で立体構造もすべて解かれているわけではありません。エンジン部分のみならずこの「クラッチ」の機構もどうもまだ人類の知らない仕組みで動いているらしいのです。

(3) 人工的にナノマシンを動かす研究
 真にこのナノマシンの分子機構がわかったならば、人工的にこのマシンを動かしてやろう!とういのが、3番目の計画です。この計画は特殊なレーザーと、特殊な金属を使用するため、生物学の知識だけでなく材料工学、光工学、コンピューター解析技術にいたる幅広い知識の集積として実現している。最先端の研究のため残念ながらここではご紹介できません。

1.2 前生物進化とエネルギーに関する分野
 生命が発生する前、単純な化学物質が生命らしくなってくる過程を研究していますが、もっとも大きな特徴はそのプロセスを実験室で再現している点です。現在行われている多くの研究が世界各地で化石や地層の研究して居るのに対して実験室のまさに机の上で250℃、24MPaの条件を実現し、生物進化の初期段階で、オリゴペプチド、オリゴヌクレオチドが出現する過程を、実験室内で再現しました。(1999年2月5日発行のScience誌に発表)。

(1) 進化フローリアクターの特性
 この反応炉は高温環境と低温環境との界面が直接に接触した非平衡開放型の反応炉で、既存のいかなるタイプの反応炉とも異なっています。この反応炉の基本的な特性を解明するとともに、非平衡における新たな化学反応過程が、反応生成物に如何に反映されるかを解明しつつあります。

担当   助教授   本多  元
    教務職員   今井 栄一

生物エネルギー工学大講座(蛋白質工学研究室)
 ヒトゲノムを含む種々のゲノムプロジェクトが続々と完了しつつあり、研究のステージがポストゲノム、すなわち構造ゲノム科学に達している。蛋白質の立体構造から得られる情報は、蛋白質自体の物性を含む基礎研究のみならず、医薬、農薬あるいは食品を初めとする多くの応用分野で必須の情報となっている。当研究室の主な研究対象は、(1)X線結晶構造解析によるキチン分解酵素の構造生物学、(2)シンクロトロン放射光を使った蛋白質の溶液造解析、(3)蛋白質工学的手法による蛋白質機能の改良である。

 Streptomyces griseus HUT6037由来キチナーゼC(ChiC)は高等植物以外の生物から見つかった最初の糖鎖加水分解酵素のファミリー19キチナーゼである。このキチナーゼはN末端のキチン吸着ドメインとC末端の活性ドメインからなり、両ドメインはリンカーで連結されている。我々は、ChiC全長の結晶構造を明らかにした(Kezuka et al. (2006)J. Mol. Biol., 358, 472-484)。これは、ファミリー19における最初のマルチドメインキチナーゼの構造である。活性ドメインは、推定触媒部位を含む深いクレフトを持ち、αヘリックスに富んだ構造をしている。同じファミリーに属する植物キチナーゼの活性ドメインと比較すると、ChiCはドメイン表面にある3本のループを欠損している。キチン吸着ドメインは、表面に並んだ2つのトリプトファン(Trp59とTrp60)を持ち、大部分がβシートから成っていた。我々は、分子動力学シミュレーションに基づいて、キチン吸着ドメインへのトリNアセチルキトトリオースの結合機構を新たに提案した。この機構では、Trp59とTrp60のみが結合に関与し、リガンドは2ヵ所の疎水相互作用と2本の水素結合によって表面に露出した結合部位に結合する。さらに、Trp60は、x2角の回転により、キチン結合表面を結晶性キチンの表面に適合させる調節の役割を果たすことが示された。

Streptomyces griseus HUT6037由来キチナーゼCの全体構造。左側がキチン吸着ドメイン、右側が活性ドメイン

  キチナーゼは様々な役割を持つが、活性ドメインのアミノ酸配列に基づく糖鎖加水分解酵素(GH)の分類では、GHファミリー18か19のどちらかに分類される。GHファミリー18キチナーゼは様々な生物に由来し、ファミリー内のドメイン構造は多様である。これに対し、ファミリー19に分類される酵素は、そのほとんどが植物キチナーゼであり、通常、活性ドメインのみ、あるいはキチン吸着ドメインと活性ドメインで構成される。Streptomyces griseus HUT6037由来キチナーゼC(ChiC)は高等植物以外の生物から見つかった最初の糖鎖加水分解酵素のGHファミリー19キチナーゼである。このキチナーゼはN末端のキチン吸着ドメイン(ChBDChiC)とC末端の活性ドメイン(CatDChiC)からなり、両ドメインはクラスIおよびIVキチナーゼ同様にリンカーで連結されている。CatDChiCは植物キチナーゼとアミノ酸配列の相同性を持つのに対し、ChBDChiCは細菌の糖鎖結合ドメインに相同性を示す。これらChBDChiCを含む細菌の糖鎖結合ドメインは、Carbohydrate-binding module (CBM)ファミリー5に、システインリッチキチン吸着ドメインはCBMファミリー18に属する。これら2つのCBMファミリー間にはアミノ酸配列、立体構造ともに相同性はない。
  2つのドメインからなるキチナーゼの触媒活性の機構を理解するためには、その全体構造を決定することが必要不可欠である。しかし、GHファミリー19では、活性ドメインのみからなる3種類の植物キチナーゼの構造が明らかになっているだけである。それらのアミノ酸配列の相同性は非常に高く、立体構造は本質的に同じである。ChBDChiCの属するCBMファミリー5の糖鎖結合ドメインに関しては、2つの構造のみが報告されている。基質やリガンドとの複合体構造は、GHファミリー19およびCBMファミリー5の両方で例がない。S. griseusに由来する2つのドメインからなるキチナーゼの結晶構造は、GHファミリー19に属するマルチドメインおよび細菌由来キチナーゼで最初に明らかになった構造である。さらに、ChBDChiCのキチン結合機構を解明するために、ChBDChiCとトリNアセチルキトトリオース複合体の分子動力学シミュレーションを行った。
担当   教 授   野中 孝昌
キチン吸着ドメインとトリNアセチルキトトリオースとの結合。ふたつのトリプトファン残基で結合する。点線は水素結合を示す。

http://bio.nagaokaut.ac.jp/~nonaka

生物エネルギー工学大講座(神経機能工学研究室)
 私たちの脳は、思考、記憶、判断、意志、感情などの「こころ」の働きを担っている臓器である。ヒトの脳では1,000億個を超える神経細胞が精密につながり合って複雑な回路を構成しており、さらに神経細胞の10倍におよぶ数のグリア細胞が神経細胞の機能を支えている。脳を中心とした神経系が正常に機能するためには、神経細胞同士の相互作用、および神経細胞とグリア細胞の相互作用が正確に働く必要がある。本研究室では、神経系の細胞間相互作用において重要な役割を担っている神経認識分子の機能を探ることによって、神経系が形成され維持されるメカニズムを解明しようとしている。

1.特異的抗体の作製
 神経認識分子をはじめとした生体分子が生体内でどのような役割を果たしているのかを調べるのには、その分子にだけ結合する「特異的抗体」が非常に強力な道具となる。特異的抗体を用いると、調べたい分子が生体内のどこで働いているのかを可視化することができる。また、発生、発達あるいは老化の過程で、いつ働いているのかを知ることができる。さらに、一緒に働いている分子を同定することにも利用できる。そこで本研究室では、マウスおよびウサギを使って抗体の作製を行っている。

2.抗体を用いた神経認識分子の機能解析
 本研究室では、神経認識分子の中でもcontactinファミリーの分子に注目して、その機能の解析を行っている。Contactinファミリーには構造のよく似たcontactin、TAG-1、BIG-1、BIG-2、NB-2、およびNB-3の6つが属している。私たちは海外の研究グループとの共同研究により、contactinとTAG-1が神経系で重要な役割を担っていることを明らかにしてきた(Hu et al., Cell 115, 163-175, (2003); Traka et al., J. Cell Biol. 162, 1161-1172, (2003))。これらの研究においても、それぞれの分子に特異的な抗体は欠かすことのできないものであった。
 Contactinファミリーのうち、NB-2とNB-3は私たちが発見した分子である。これらの神経認識分子は、生後数週間の神経回路が成熟する時期に最も盛んに働いている。その時期は、神経細胞とグリア細胞の相互作用が最も重要な役割を担っている時期である。私たちは最近NB-2とNB-3に対する特異的抗体を作製することに成功し、それらの抗体を用いてNB-2とNB-3の詳細な脳内局在を調べている。

3.分子生物学的・生化学的手法による機能解析
 Contactinは、同じ細胞上のCasprと結合するとともに向き合った細胞上のNF155と結合することによって、神経機能に必須の役割を果たしていることが明らかにされている。また、TAG-1は同じ細胞上のCaspr2および向き合った細胞上のTAG-1と結合している。
 NB-2とNB-3もCasprファミリーの分子と同じ細胞上で結合している可能性があり、向き合った細胞上の神経認識分子と結合していると考えられる。NB-2やNB-3がどのような分子と結合しているのかを調べることは生体内での役割を解明していく上で非常に重要なので、本研究室では分子生物学的・生化学的な手法を用いて神経認識分子と結合する分子の検索と解析を行っている。

4.遺伝子改変モデル動物を用いた神経機能の解析
 脳・神経系における神経認識分子の役割を明らかにする上で、動物の個体レベルでの解析も欠かせない。私たちはこれまでにNB-2、NB-3、およびTAG-1をそれぞれ別個に働かないように遺伝子改変したマウスを作製した。このようなマウスでは改変した遺伝子が本来なら担っていたはずの機能が失われているため、行動や形態を解析することで遺伝子の機能を明らかにできるだけでなく、疾患モデル動物として利用することができる。本研究室ではNB-2、NB-3、TAG-1改変マウスについてそれぞれ聴覚、運動、発達障害のモデルとしての検討を行っている。

担当   教 授   渡邉 和忠
    助 手   霜田  靖
http://bio.nagaokaut.ac.jp/~watanabe/

生物エネルギー工学大講座(高分子機能工学研究室)
 生体膜に代表される高い配向秩序と適度な可動性を合わせもつ“分子集合体”の構造と機能の究明、並びにその人工的モデル設計、セルロース系多糖などの“結合組織形成高分子”の構造解析と高機能化を行なっている。構造や物性の評価には、DSC熱分析、固体13C NMRやFT-IR等の分光法、走査型プローブ顕微鏡を組み合わせて行っている。現在の研究テーマの中心は、合成コポリマーや多糖誘導体の分子鎖コンホメーションや固体構造、糖類・脂質の液晶やゲルである。また、特産の小国和紙についても学民連携の立場から研究を進めている。

1.小国和紙の製法に関する研究
 小国和紙は、長岡市小国町の山野田集落で江戸時代から作られてきた。雪を生かした製法で無形文化財にもなったが、残念ながら、20年ほど前に山野田での和紙作りは途絶えている。現在では、小国町内の2箇所でその製法が受け継がれているのみである。小国和紙の特徴は、凍み渡りが出来る2月に行なわれる雪晒しである。化学薬品を使わないため、有害物は発生せず、楮繊維にも優しい。しかし、そのメカニズムの詳細や楮繊維の構造に与える効果は科学的には未解明である。本研究は、市井の職人の方々との学民連携により、こうした未解明な部分に科学の光をあてようとするものである、豪雪地を逆に生かした利雪の観点からも重要な研究であると考えている。

2.生体由来分子の液晶・ゲルの形成挙動と光学的・熱的性質
 コレステロール・脂肪酸の誘導体は液晶を形成するが、異種分子と相互作用させると相転移挙動が大きく変化する。既に、comb型(櫛の歯部がメソゲン)あるいはtadpole型(頭部がメソゲン又は頭・尾部共にメソゲン)の錯形成及び誘導体の合成を試み、DSC熱分析と光学組織の観察から相挙動を検討し、ガラス化した液晶の存在を示唆した。又、アミド基を有するコレステロール誘導体が、コレステロール基の嵩高さに起因して、有機溶媒に対する良いゲル化剤となることも見出している。
  一方、セルロース誘導体やポリペプチドは主として濃厚溶液系で液晶を形成するが、ここにずり応力を印加すると、偏光顕微鏡下でナノ〜ミクロンオーダーの周期的な縞状の「バンド構造」が観測される場合がある。走査型プローブ顕微鏡(SPM)により、このバンドが数十ナノメートルの周期的な凹凸からなることを明らかにした。液晶ディスプレイのラビング処理層の代わりや、ナノ構造構築の鋳型等への応用が期待される。

3.多糖分子鎖の計算機シミュレーション
 生体由来分子、とりわけ多糖の場合、一次構造や分子量の不均一性の為、分子構造と物性の関係を実験的に調べることは容易でないばかりか、多糖1分子の立体構造すら良く分かっていない。そこで、計算機化学の手法(量子化学・分子力場計算・分子動力学計算)を用いて、分子モデリングと分子集合状態に対するシミュレーションを行っている。現在は、セルロース系多糖水溶液の液晶構造に及ぼす無機イオンの添加効果を分子レベルで明らかにしようとしている。

4.コポリマーのガラス転移挙動の計算機シミュレーション
 合成コポリマーのガラス転移温度は、モノマー単位の組成だけでなく、その並び方によって大きく変わることが知られている。本研究では、高分子の計算機シミュレーションにおいて業界標準となっているMaterialsStudioを用いて、分子動力学シミュレーションによりガラス転移温度を評価しようとしている。シミュレーションで得られるガラス転移温度以外の情報、例えばモノマーの空間的配位やその運動を解析することにより、気体透過能をはじめとする様々な物性について実験では得られない詳細な情報を引き出すことが出来ると期待される。

担当   助教授   木村 悟隆
    助 手   山崎 理絵