生物情報工学大講座(酵素工学研究室)
 酸素を中心とした生体触媒は生物のあらゆる化学反応に関与しており、その機能は複雑、多様かつ巧妙な仕組みから成り立っている。本研究室では、それらの機能を解析しつつ有効に活用して行くことを中心課題としている。具体的には、酵素工学的および遺伝子工学的手法を用いて、微生物が生産する酵素の生合成調節機構、酵素タンパク質の構造機能相関、反応の諸性質の解明およびその利用などの研究を行っている。

1.セルラーゼおよびその関連酵素に関する研究
 地球上の最大の資源でありかつ再生可能なセルロース系バイオマスのエネルギー等への有効利用は、今日の地球環境保全問題に炭酸ガス増加による地球温暖化を防止する点で大いに期待されている。しかし、セルロースの酵素的加水分解(糖化)反応は澱粉加水分解と比べ、反応速度が低いことから、大量の酵素(セルラーゼ)を必要とするなど大きな課題を抱えている。本研究室では、微生物(カビ)のセルラーゼ産生機構、新規セルラーゼの精製と性質の検討およびその遺伝子のクローニングと発現、セルラーゼのタンパク質工学(スーパーセルラーゼ構築の試み)、およびセルラーゼによる結晶セルロース分解機構の詳細な検討などの面から上記課題の解決を目指している。その他、キシラン分解酵素(キシラナーゼ)やキチン分解酵素(キチナーゼ・キトサナーゼ)などセルラーゼと類似した酵素の研究を含めて、酵素工学面からの総合的なバイオマス変換に取り組んでいる。
 これらの研究を基に、経産省および農水省が開始したセルロース系バイオマスからの燃料アルコール生産に関する2つのプロジェクトに参加し、燃料アルコール生産の実用化を目指した研究開発を他団体・大学と共同に行っている。さらに、本学が21世紀COEプログラムにおいて採用された「グリーンエネルギー革命による環境再生」におけるセルロース系バイオマスのエネルギー変換の分野で参加をしている。

2.有用酵素類の探索・機能解明・利用に関する研究
 自然界にはまだ見い出されていない各種の反応を触媒する酵素が無数に存在し、また既存の酵素でも新しい反応を触媒する可能性を秘めている。これらを見い出して有用物質生産に応用していくことを目指しているが、現在はタンパク質を末端から分解していくエキソペプチダーゼに焦点を当てて研究している。
 ペプチドのN末端あるいはC末端からアミノ酸の2量体であるジペプチドを遊離するジペプチジルアミノペプチダーゼ(DAP)あるいはジペプチジルカルボキシペプチダーゼ(DCP)は哺乳類起源のものは詳細に研究されているが、微生物では余り検討されていない。そこで、微生物由来のDAPおよびDCPの探索を行い、バクテリア由来の新規のDAPおよびDCPを見い出した。これらの酵素の精製および性質の検討、遺伝子のクローニングと塩基配列の決定および大腸菌での発現に成功している。
 今後は、なぜジペプチド単位で特異的に切断するのか等を酵素タンパク質の構造と機能の関係から明らかにするとともに、タンパク質からのオリゴペプチドの生産など機能性食品や医薬品への応用面についても取り組んで行く予定である。
http://bio.nagaokaut.ac.jp/~morikawa/
担当   教 授   森川  康
    助教授   岡田 宏文
    助 手   小笠原 渉

生物情報工学大講座(微生物工学研究室)
 生物は多様な環境に適応してさまざまな機能を発揮している。特に微生物は想像をはるかに超える多彩な機能を持ち、細胞システムの単純さと取り扱い易さを備え、生物現象の基礎的研究やその機能の応用において優れた利点を持っている。人工的に創り出された有害な化学物質が環境中に残留して引き起こす環境汚染が問題となっているが、このような物質に対しても進化適応して分解能力を獲得した微生物(分解微生物)が見出されている。我々はこのような分解微生物の分解酵素ならびにその遺伝子を詳細に調べ、遺伝子工学やタンパク質工学などの手法を活用して更に高度な分解能力を創造するとともに、その進化適応のメカニズムを新たな育種手段に利用することをめざしている。

1.PCB分解細菌の解析と育種
 ポリ塩化ビフェニル(PCB)は深刻な環境汚染物質としてだけでなく環境ホルモンとしても知られ、分解処理法の確立が待ち望まれている。我々は世界でもトップレベルのPCB分解能力を持つロドコッカス属細菌RHA1株を取得するのに成功した。このRHA1株のずば抜けた分解能力の秘密を解き明かして、PCBを完全に分解できる強力分解菌を創造することをめざしている。これまでにRHA1株の分解遺伝子群について解析を進め、主要な分解遺伝子の構造を解明するとともにRHA1株が複数のPCB分解酵素システムを持つことを明らかにした。この成果を活用してPCBを完全に分解できる分解酵素系の構築を進めている。また分解酵素遺伝子の発現を強化して分解能力を高めるために分解酵素の誘導を調節している発現調節遺伝子の構造と制御メカニズムの解明を進めている。一方、学内での共同研究によりPCB分解酵素の3次元立体構造の解明に世界で初めて成功しており、アミノ酸配列を人為的に変えた改変酵素を構築する蛋白質工学による各分解酵素の改良も試みている。さらにRHA1株に備わる全機能を解明するため、ブリティシュコロンビア大学(カナダ・バンクーバー)と共同で全遺伝子配列を解明し、世界最大の細菌ゲノムであることを明らかにした。

2.リグニン分解酵素系の解明
 木材の主成分の1つであるリグニンは紙パルプ産業における邪魔者の芳香族化合物であり、有効利用を考慮した分解処理が望まれている。リグニンはキノコ類により低分子リグニンとなり、細菌類によりさらに分解される。キノコ類については多くの研究が行われているが、細菌類の分解については研究例が乏しく、研究の進展が望まれている。我々は低分子リグニンの分解能力に優れたスフィンゴモナス属細菌SYK-6株のリグニン分解酵素遺伝子群の解析を行っている。SYK-6のリグニンの分解は非常に多様な酵素群の働きで行われるが、すでに主要な酵素の機能と遺伝子構造を解明しており、リグニン分解過程の全貌を明らかにすることをめざしてさらに研究を進めている。またリグニン分解の過程で生じる中間体物質を蓄積させて、易分解性・高機能性プラスチック生産に利用することも試みている。

3.2,4-D分解細菌の進化
 人工物質による環境汚染が分解菌の進化に与える影響を調べるため、農薬等の汚染がないハワイ島などで除草剤の2,4-Dを分解する新規の細菌が分離された。環境汚染物質分解酵素の進化のメカニズムをさぐるため、この新規分解菌の分解酵素系遺伝子の構造と分布の解明をミシガン州立大学(米国・イーストランシング)と共同で調べている。

4.POPs類分解酵素系の解明
 難分解性有機環境汚染物質(POPs)にリストされているジベンゾフラン(ダイオキシン類)やDDT(殺虫剤)の分解システムの開発をめざし、分解細菌の分解酵素系の解析を進めている。

(ホームページ:http://bio.nagaokaut.ac.jp/~fukuda-1/
担当   教 授   福田 雅夫
    助教授   政井 英司
    技術専門職員   三間 達也

生物情報工学大講座(生物情報材料工学研究室)
 生物系科学の分野は基本的に化学、物理の両分野にまたがる広大な領域であるが、工学分野からのアプローチもますます重要になってきている。生物情報工学大講座の中の本研究室では、生物素材を高度に利用した新規な機能性材料やバイオ素子を創出し、それらを応用した生物情報システムの構築を図るとともに、生物関連分野の諸現象や生物機能を究明することを意図している。具体的には、生物素材とエレクトロニクス素材とを組み合わせたハイブリッド材料の試作から出発し、さらに、それらのデバイス化によって従来とは全く異なった新規なバイオ素子を創出し、複雑な生物機能に迫ろうと考えている。

1.生物素材のハイブリッド化
 酵素や各種の機能性タンパクなどの生物素材を工学的に利用しやすい形態(材料、素子)へと変換して行くためには、それらの生物素材を何らかの手段で固体の表面に結合させたり、他の物質(分子)と複合化させることが必要となる。生物素材を他の物質と結合、複合化するためには、物理的な方法と化学的な方法とが考えられるが、生物素材分子の持つ機能を積極的に引き出し、しかも安定なハイブリッド化を行おうとすれば、分子レベルでの化学的な結合形成はきわめて重要な課題である。このような観点から、本研究室では、生物素材の高度利用のための基礎技術として、生物素材の化学的結合による固体の表面改質、修飾ならびに生物素材と有機・高分子材料とのレベルでの結合に取り組んでいる。
 固体表面に存在する原子団(例えば、炭素表面上の芳香族環や水酸基あるいはカルボキシル基、酸化物系無機物質表面上の水酸基など)を反応点として、新たに種々の有機原子団や高分子鎖を化学的に結合(共有結合)させることができるので、それらを足場とすることにより、酸素分子や各種の機能性タンパク分子を固体表面に結合させることができる。酸化物系無機物質であるシリカゲルやアルミナゲルなどの表面には多数の水酸基が存在しているので、これらの結合点として酵素を共有結合させれば、安定な工業触媒として、酵素を様々な形態で利用することが可能となる。さらに、マグネタイトやフェライトなどの磁性体の表面に酵素を結合させておけば、酵素反応生成物を磁気的に分離することもできる。バイオセンシングの分野での応用に関しては、例えば、抗体タンパクを水晶振動子の表面に結合させれば、抗原-抗体反応で捕捉される抗原による重量増加が共振周波数の変化をもたらすので、これを追跡することによって極めて高い質量感度で抗原を検知することが可能である。
 一方、生物素材と他の有機・高分子材料とを分子レベルで結合、複合化することも従来にない新規な機能性材料創出の基盤となる重要な技術である。生物素材を利用してバイオ素子を構築しようとする場合、生物素材の機能をいかに電気的に応用するかが課題であり、有機エレクトロニクス材料との組み合わせにも興味が持たれるところである。現在、バイオセンサーやバイオ燃料電池への適用を前提として、導電性高分子と酵素分子との共有結合化に取り組んでいるが、両者の機能を損なわずに複合分子を得ることが目標となる。さらに、生物素材とイオン伝導性高分子との組み合わせも重要な課題と位置付けられる。

2.ハイブリッド材料とバイオ素子
 有機エレクトロニクス材料を代表する導電性高分子は分子鎖中での電気伝導を特徴としているが、生物体が主に有機化合物から構成されていることを考えると、生物素材と有機エレクトロニクス素材とのハイブリッド化、さらに各種デバイスへの応用は極めて興味ある問題である。このような背景から、本研究室では各種の導電性高分子と酵素とを組み合わせたバイオ素子の研究を行っている。具体的には、5員環系のポリピロール類やポリチオフェン類と様々な酸化還元酵素を結びつけたハイブリッド材料を作製し、電気的および電気化学的な特性解析を実施している。これらのハイブリッド材料は電流検知型のバイオセンサーやバイオ燃料電池の構成要素として有用である。また、各種有機導電体の半導体特性についても応用を検討しているが、これらと生物関連物質とのハイブリッド化も新規なバイオ素子の実現につながる重要な課題である。

3.生物体の電子、イオン輸送機構
 生物体の電子、イオン輸送機構のモデルとして、有機導電性高分子の電子、イオン伝達は興味深い。従来、有機系の化合物では電子伝達はほとんど起こらないとされていたが、近年、共役二重結合を介したソリトン、ポーラロン、バイポーラロンによる電子伝導が知られるようになった。これらの電子伝達機構は生物体においても予想されることから、それらを対応させながら解析を進めている。

担当   教 授   宮内信之助
    助教授   下村 雅人
http://bio.nagaokaut.ac.jp/~miyauchi/