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外部評価と学校教育法第109条第1項の規定に基づく自己点検・評価 1999-2000

外部評価と自己点検・評価


長岡技術科学大学外部評価委員会 総括評価書 平成12年3月30日

 実践的教育と企業連携は工学系大学に課せられた使命であり、長岡技術科学大学は新構想大学として「実践的・創造的な能力を備えた技術者の養成」を理念に掲げており、大学の目指す方向及びその努力が明確にされているとともに、実践的教育のみならず教育活動全般にわたり数多くの意欲的な試みが行われ、高い実績を上げている。理念・目標に基づく将来計画も、時代の変化や社会の要求を読み取りながら着実に進められており、高等専門学校等との接続に立った教育活動、研究活動、国際交流、社会貢献、長期実務訓練等、質の高い活動が数多く展開されている。さらに、卒業生に対する産業界の評価も高く、教官一人当たりの科学研究費補助金の採択件数、配分額とも全国平均を大幅に上回る実績は教官の日常の研究活動の努力と共に大学の基本的な姿勢が示唆されるものであり、高く評価される。また、大学審議会の答申等に従って社会の要請に応える大学改革を進めており、総合的に見てユニークなレベルの高い工学系大学と評価できる。今後の課題としては、学理と実践をどのように融合し、技術を科学する行為がどのように成されフィードバックされているのか、また大学としてどのように組織化して取り組んでいるか明瞭にしてほしい。特に高専等である程度専門を学んで来た者に「技学」としての幅広さを身に付けさせるカリキュラム構成や「技学」の理念を体現した授業科目の検討が望まれる。また、教育活動面では製造業人口は減少しつつある環境のもとで指導的技術者像をどう提示していくか、研究活動面では大学としての研究推進方針・施策をどのように明確化していくかであろう。また、企業側から見て、特許化マインドは学生教育にも好影響があると認識されるので大学の長所としての特許重視の風土を失わないようにすべきである その他、要望・意見は、(1)大学の特色を生かして、情報や環境、あるいは生命など社会に関わる技術を総合的に研究する「新しい産業の創造」にも取り組んでほしいこと、(2)グローバル化した世界の中でわが国の基盤を支える「指導的役割を果たす高度な工学専門家育成」を社会の変化に適確に対応しながら今後も進めてほしいこと、(3)研究の取組方法、問題点の把握、解決方法の立案、その実行・評価・報告など自己完結型の大学院修了者を育成してほしいこと、(4)高専卒業者の教育という使命を達成すること、(5)公開授業等を通じた教官同士による授業評価及び学生による授業アンケート等を全学的見地から早急に実施すること、等である。

大学の理念と特色

 「学理と実践の融合により技学を創出し、それを担う創造的・実践的な技術者の養成を行い、及びこれらを通じて社会との連携を図る」という基本理念は、工学系の大学として極めて明確かつ個性的であり、高く評価できる。また、特色である高等専門学校・工業高等学校等の卒業生受入れ、大学院修士課程までの一貫した教育体制、実務訓練の実施等は具体的かつ個性的である。しかし、創立時の高度成長時代においては鮮明であった「役に立つ」技術者像も産業・社会の発展とともに変化しており、グローバル化・情報化・多様化が一層進む21世紀に必要な技術者が創立時に想定したものと同じであるか疑問である。環境問題等の複雑な問題への学際的・総合的な取り組みが強く求められ、従来からのハード技術に加えてシステム・ソフトウェア技術の重要性も尚一層高まりつつある今日、「社会の要請に応える」という受け身的な対応にとどまらず、「新しい文化の発信元」として「社会の変化をリード」するような積極性もまた大学に必要である。新構想大学からの脱皮を果たしてきた長岡技術科学大学にとっては、これまでの理念や特色を包含しつつ、教育研究の一層の高度化を図ることを目的として、新たな理念と特色を附加することを検討すべきである。修士課程から博士課程までの一貫性と博士課程の拡充・充実、国際的技術者養成の観点から「英語を母国語とする教員の増加」、優れた研究者を世界中から集めること、平成12年度から経営情報システム工学課程が新設される予定であるが、既存の専攻分野全体(教育組織・教員組織)についてもハードウェア中心の構成の見直し等が必要かと思われる。一方、技術科学大学が高専卒業生に対する生涯教育機関としての役割を果たすことで新たな特色を出すことも検討してはどうか。また、「将来どんな大学にしたいか」について学内でフランクな議論を一層進めることも大切である。

人事、任期制、教員構成

 人事については、現在の教官の質の高さを考えれば、大変成功していると判断される。教員組織と教育組織に分けて従来の講座制の弊害を改善し、教員の任用に公募制を取り入れていることは大いに評価できる。また、流動型の職への任期制導入や外国人教員の任用は、研究の活性化にとって極めて重要な要素の一つであり評価できる。特に、企業等の経験者を全教員の1/3程度とする方針は、多様にして実践的な技術教育を実施する上で効果的である。しかし、教員の任期制については、ごく初歩的なことが実施されているにすぎず、先端的、学際的、総合的な教授、助教授職まで拡大すべきである。特に、任期制に基づく職が上位ポストのないセンター教官や外国人等への適用に偏っているきらいがあり、教育研究の活性化の観点から一層の改善が望まれる。また、教員の欠員についてはその充足に努める一方、新たな展開が期待できる分野等に任期を付して採用するなどの学内措置も検討してはどうか。教員構成については、女性が少ないきらいがある。

 教員人事については、プロジェクト・ベースの人員配置、ポスドクレベルの魅力あるポジションの確保、産業界との間での双方向人事交流・兼任制度、高専との一層の人事交流等について検討してはどうか。また、教員の教育業績評価については、米国等の実態調査を行っているとのことであるが、その調査を踏まえて、積極的に方法の開発、運用について検討すべきである。

将来計画と当面の改革

 情報化時代における経営技術者養成を目的とした経営情報システム工学課程及び専攻は、時代に対応したユニークなものであり、また、機械系と電気系の課程改組とそれに接続した専攻の設置も社会・産業界のニーズに柔軟に対応しており、これら当面の改革は評価できる。また、共通科目に管理科学等の社会科学的な知見の内容を強化しようとしている点や、国際協力の推進に力を注いでいる点は大いに評価できるものである。しかし、当面の改革については戦術的項目が多く、「大学の将来像」や「21世紀に活躍する技術教育のイメージ」が見えてこないきらいがあり、社会人の学習や資格取得の需要に応えるための将来施策をさらに充実させ、将来に向けては特徴を打ち出していくことが必要であろう。昭和61年策定の将来構想から脱皮し、教育研究の高度化のための新たな改革方針を示しつつ、当面の改革を学内共同研究施設の整備・拡充、教育研究システムの在り方、国際協力の推進等と有機的に連携づける必要がある。また、情報化社会への対応の度合いを一層強化し、産業界の人的ニーズを先取りした専攻改組への取り組み、専門領域の融合や人文・社会科学の学際を踏まえた斬新な構想も必要であると判断される。ファカルティ・ディベロップメント(FD)は当面の改革の中で早急に取り組むべきであり、FDセンター等の設置も検討すべきと考える。また、マルチメディアシステムセンターの中に学習支援センターのようなものを設置し、新入生や社会人入学生が基礎科目を自発的に学習したり、留学生が日本語や日本事情を自発的に学習できるようにしてはどうか。さらに、マルチメディアや情報技術(IT)活用の教育提供を他大学・高専に対してだけでなく、企業や社会人個人にも広げる戦略についても検討すべきである。加えて、日本技術者教育認定機構(JABEE)が発足したことから、技術者教育プログラムについてその評価認定を受けるため取り組んでいるようであるが、その姿勢は大切である。一方、研究面においては、修士課程や博士課程のテーマ設定と研究指導を企業との共同形態で進めることも検討に値するであろう。

多様な入学者(社会人、留学生等)の受入れに関する努力と実績

 多様な学生を受け入れるための大学の努力と実績は、ほぼ全委員が良い評価を与えている。多様な学生の受入れは、大学の理念にも合致していることから今後も重要な課題である。特に社会人、留学生の受入れに力を入れて努力していること、さらに、実績として、留学生が多いこと、推薦入学が多いこと、等が評価される。しかし、既に他大学も多様化を目指し努力しているので、大学の特徴を出すことが必要であり、社会人や留学生の教育で東南アジアの大学等への協力は今後も重要であり大きな使命であろう。一方、欧米からの留学生が少ない。今後予想されることとして、入学者を多様化することで教育に相当の負担がかかるであろう。高専・専門高校等で学んだこととカリキュラムとの関係をより明確にしていくべきであり、その際、高専等である程度専門を学んで来た者に「技学」としての幅広さを身に付けさせるカリキュラム構成や、「技学」の理念を体現した授業科目の検討が望まれる。平成11年度から開設された高等学校工業担当教員リフレッシュ教育コースは高校の教員免許教科の増加によって、ますます重要になると思われるので、一層の充実強化に努めるべきである。

 教育・研究の多様化の視点から、教育・研究の根幹に関わることとして、アメリカの国家的プロジェクト、社会生活、企業戦略の研究に見習う必要もあるのではないか。多様な入学者を受け入れた後、在学中に均質化するのは必ずしも良いとは限らない。平均像を超えた個性のある学生を送りだすことも意味がある。また、多様な入学方法の特長が生かされているかどうか、入学後の追跡調査等を今後とも一層綿密に行ったらどうか等の意見もある。

実務訓練の教育効果

 実務訓練については、ほぼ全委員がよい評価を与えている。修士課程入学者に目的意識を持たせたり、研究の動機づけをさせるためのシステムとして継続的に行っており、日本の他の大学では見られないユニークな制度である。また、実務訓練の実施は他に見られない長期間で、教育目的に合致し、時宜にかなったものであり、学生の満足度がきわめて高いことから、大学、企業の努力が高く評価できる。

 一方、期間がもっと長い方が(半年ほど)効果は上がるのではないか。また、同じ単位数を与えるのに、課程により期間が違うのは気になる点ではある。

 実務訓練をより効果的にするために、修士課程にも多様な形態の実務訓練を導入する工夫をしてはどうか。今後、更に教育効果を上げるためには、実務訓練先の調査、選定方法を考え、受入側の努力と効果の関係を明らかにすること、そして学生、指導者、指導教官のミーティングを十分に行うことが必要であろう。実務訓練の制度を改善していく方法として、学生及び企業のアンケートをとることは有益であろう。国際交流に実務訓練を組み込み学生の相互交流を活性化することも考えられる。また、実務訓練も重要であるが、エンジニアである前によき世界市民であることを念頭に置き、一般教養や国際語としての英語、コンピュータの能力の育成方法も充実されたいとの意見もある。

企業及び修士修了生へのアンケート調査結果

 アンケートについては、ほぼ全委員がよい評価を与えている。アンケートを実施することは、大学が学生の教育への責任を示すよい方法であるし、企業の評価を聞くことは興味深いことであり、それを先進的に実行しているのは評価できる。その内容は、調査項目、分析の方法、引き出した結論とも適切であり、フィードバックに値するものである。また、回答に現れた結果としては、大学の理念等の実現に対してよい評価を得ており、修了生が満足しているところ、不満なところが分かり、今後の教育に反映させることができる。課題としては、在学学生による各授業の評価(アンケート等)を実施することが望まれる。さらに、このような評価の上に実践的な技術教育を行うために大学独自のFDを作り上げていくことが必要であろう。平均的な学生の評価だけではなく、異色の卒業生を意識的に調査してはどうか。回答において、「普通」という回答が多いのは、学生が白けている証拠なのかもしれず、一考を要する。

 アンケート結果に現れた学生・修了生の欠けている点を改善する方法として、大学院の教育にはマンツーマン、ステップバイステップの教育が必要であり、教養教育、英語能力、リーダーシップの涵養には学生の多くが入学前にある程度の専門性を身につけていることを活かせないか、工夫を要する。

文部省科学研究費補助金等の採択状況等

 文部省科学研究費補助金の採択状況は、教官一人当たりの採択件数や配分額が、毎年全国平均の2倍を上回り、採択件数、採択率ともに年々増加傾向にあることは、研究活動における大学の勢いが感じられ、高く評価される。また、近年受託研究が急増傾向にあり、奨学寄附金の受入れも毎年2億円を超えていることは、研究活動が旺盛で、非常に活発であることを如実に示している。

 科学研究費補助金は、概略増加傾向にあるが、研究資金の中で最も国内経済の影響の少ないものであり、採択件数、採択率について隔年で増減を繰り返し、系によっては平成10年度から11年度にかけてかなり減少しているので、より安定な収入にする施策が望まれる。

 奨学寄附金は、一件あたり平均100万円未満であり、実態は挨拶代わり的な性格を持っているものもあると想像され、今後は減る傾向になろう。現状では確かに柔軟で優れた制度ではあるが、時に不透明な資金の流れになるおそれがある。大学側、企業側それぞれに不透明にならないようにするための意識的配慮を要する。独立行政法人化すれば問題は根本的に変わってくるが、長期的には制度の整備(大学等技術移転事業実施機関―TLO―など)も必要であろう。

 産学共同研究は、今後委託研究テーマの選択と集中が進むものと予想され、企業のコア技術に育つような研究課題の企画や、明示的なシステムの活用による目的に応じた金額の設定が望まれる。地域に企業が少ないためか、また、この大学独自の技術開発センタープロジェクトにより別途受け入れているため、文部省制度による民間等との共同研究の件数が少ないように見受けられる。特に、通産省、科技庁など各省庁が様々な制度を設け、それぞれに多額の予算が組まれているので、積極的な姿勢で申請を出して、企業を巻き込んでこれら資金を導入し、大学と企業の活性化を図るべきである。プロジェクトの中心的役割を務めるには、優れた企画とその分野における実績が必要で、関係する大学、企業との緊密な連携が要求される。その中から生まれた技術・ノウハウから本当のTLOが可能になるのであり、初めにTLOありでは決して進まないであろう。

教官研究業績の現状

 教官研究業績では、教官一人当たりの、著書、学会誌へのオリジナル論文、総説などの研究業績は十分な水準を保持している。また、民間等との共同研究をはじめ公募型事業のプロジェクトへの参加、さらには教官(特に機械系)の学会等からの受賞の件数も多く、研究に対するアクティビティーが社会から十分に評価されていると言える。また、学生の学会等からの受賞・表彰の件数が多いことは、6年一貫教育の効果の顕れとみられ、高く評価できる。特許件数が一般より格段に多く、今後TLOなどにより民間に移管される可能性を考えると大変結構なことである。

 一方、特許件数が平成7年以後減少傾向にあり、折角の長所を失う危惧を感じる。大学の特許に社会が注目し始めた、まさにその時期に特許出願数が減少している。実践的な教育研究を目標としている以上、技術開発に繋がる成果として、特許の数を増やす方向で努力することが必要である。日米の大学における特許取得に対する姿勢は大きく異なり、それが大学からの起業にも多大に影響している。特許重視の風土は学生教育にも好影響があり、早急に見直す必要がある。

 研究業績の教官による偏りは十分予想できることであり、個々の教官の分散度は大きい方が良い。多くの教官が多くの業績を挙げた方が良いかもしれないが、個々の教官の評価は内部評価の問題と考える。また、研究業績面での平均値は世界でもトップクラスと思われるが、ピークにやや不安を覚える。それは、大学を外から見たとき、平均値ではなく、ともすればピークの数を見てしまう傾向があるからである。

 論文件数や発表件数だけでなく、文献引用件数、研究の国際性、地域や産業への貢献など研究成果の質的な面を重視した評価が求められる。また、国際会議のコーディネーターや国家プロジェクトの推進役などには特別の評価を与えることが望ましい。たとえ少数でも、世の中の注目を集めるような大成功事例が欲しい。

政府開発援助(ODA)協力の現状と在り方

 ODAによるタイ、インドネシアの大学への工学教育支援に関して、大学が多くの教官を継続的に派遣し、多大な貢献をしている点は評価できる。
関連して、ODA協力と大学理念の整合性はどうなっているのか、派遣教官関連の研究指導や授業の補填について配慮が必要であること、留学生受入れに関して、単位認定制度の検討を行ってはどうか、等の意見や提言があった。

国際学術交流への取り組み

 協定倒れでなく、学生・教官ともに受入れ・派遣(双方向交流)があり、着実に進めていること、異なる地域と継続的に交流していること、交流の枠組みがしっかりしていること、日本学術振興会の制度による先進国からの研究者受入れがあることが評価できる。
問題点及び提言として、学術交流協定に基づく学生の受入れ・派遣等が開発途上国に偏っていること、よくやっているが、目玉になるほどではないし、各教官の研究実績からすれば、もっと先進国との交流があるべきこと、留学生受入れに関して、学生の在日期間中だけでなく、選考過程まで含めて総合的な交流プログラムを考えてはどうか、特定の大学とより活発に交流を行ってはどうか、国際(学術)交流と地域交流をミックスしたプログラムが組めないか、グローバル・ユニバーシティとしてのアイデンティティーを確立して欲しい、等の意見があった。

高等専門学校との連携とその在り方

 高専との連携が密であり、大学の設立の趣旨に照らして、努力している点が評価できる。具体的内容の例として、教務関係懇談会、教官研究集会、人事交流、訪問事業、出前授業や遠隔授業などが挙げられる。

 その一方で、高専との連携の努力に関しては、まだ、その成果が十分に見えにくい面があることから、その効果についての評価が必要であろう。また、高専卒業生の進学受入先が拡大されて、この大学への志望者が減少しつつある現状では「技術科学大学の意義をどこに求めるか?」とか「特長を生かした魅力あるカリキュラムを用意してこの傾向を食い止めなければならない」と、更なる努力の必要性も指摘された。連携をより強化するため、高専教官の学位取得や研究について一層協力すること、遠隔授業システムを活発に利用して授業や単位互換を行い、高専の教育研究の核となることを提言したい。

 レベルの高い入学者を迎える観点からは、高専専攻科修了生を大学院に受入れる推薦選抜などに際して、量より質に留意して安易に入学定員充足を求めず、自発的行動能力等の判定のために面接や口頭試問を一層重視して「志」や「意識」をきめ細かく確認する必要があろう。また、衛星通信大学間ネットワーク構築(SCS)事業及びマルチメディア・ユニバーシティ・パイロット(MUP)事業により整備された施設設備の活用による連携強化も提言したい。

※大学機関別認証評価についての自己点検・評価は、 こちらをご覧ください。

外部評価と自己点検・評価