物理法則に基づくAIによる科学的発見の加速 – 横田 和哉

AIは私たちの生活を大きく変えようとしています。例えば対話型AIはここ数年で自然な会話が可能になり、画像生成AIは実際の写真と見分けがつかない画像を生成することが可能になりました。このようなAIの技術を科学研究に応用する分野をScientific Machine Learning
(科学的機械学習)といい、近年、気候変動の予測や新材料の開発などへの活用が大きく期待されています。

一般的なAIは学習したデータに基づき推論を行います。対話型AIの開発に大量の会話データが必要であるように、例えば流体解析を行うAIを開発するためには大量の実験・数値解析データを学習させる必要があります。しかし、データのみに基づくAIは、その推論結果が物理法則を満たすことが保証されないという問題があります。この問題に対し、Physics-informed Machine Learning(物理法則に基づく機械学習)が近年大きく注目されています。これは物理法則をAIに学習させることで、物理的整合性を担保しながら、様々な科学的発見にAIを活用しようとする試みです。

私は音響解析と伝熱解析を行うAIの開発に取り組んでいます。音響解析では波動方程式を学習させることで、楽器の設計最適化を行うAIを開発しました(図1)。また、伝熱解析においては熱伝導方程式を学習させることで、放熱板の設計を行うAIを開発しました(図2)。将来は複数の物理法則を単一のAIに学習させ、複雑な工学的課題を解決できるAIモデルを開発し、「SDGsゴール9: 産業と技術革新の基盤をつくろう」への貢献を目指します。また、学生に対しては従来の工学に加え、高度なデータサイエンスに関する研究テーマを与えることで、現代に求められる技術者・研究者の育成を行い、「SDGsゴール4: 質の高い教育をみんなに」に貢献します。

物理法則に基づくAIは、我々をとりまく様々なデータと物理法則をつなぐ結び目のような技術です。今後も異分野連携・融合を通して、高度情報化社会における技術革新に貢献していきます。

波動方程式を学習したAIによる楽器の設計。(上)実験風景(下)設計最適化結果
放熱板の設計を行うニューラルネットワーク。熱伝導方程式を学習させ、設計を行います。

横田 和哉 Yokota Kazuya

機械系 助教

  • 2020年10月 - 現在長岡技術科学大学 技学研究院機械系 助教
  • 2018年4月 - 2020年3月日本学術振興会 特別研究員(DC2)
  • 2015年4月 - 2016年9月つくば市役所 職員 

機械系 助教 横田 和哉