超高活性なアクチンが細菌の動きを生み出す-やわらかい特殊ならせん細菌「スピロプラズマ」のユニークな運動機構に迫る-
2025.08.28
ポイント
- 農作物や甲殻類への病原細菌「スピロプラズマ(※1)」は、細胞壁を持たず、らせん形の体をねじるようなユニークな動きをします(図1, 2)。
- この動きに必要な細菌アクチン(※2)タンパク質である2種類のMreBのうち、MreB1について、技術的な問題を解決することで超高活性であることを発見しました。
- MreB1が、もう1つのMreB(MreB5)の繊維構造をコントロールしていることが分かり、複数のタンパク質が働きあうことで細菌が動くメカニズムを提唱しました。
概要
長岡技術科学大学技学研究院物質生物系の藤原郁子准教授、大阪公立大学大学院理学研究科の高橋大地研究員(研究開始当時。現・岡山大学異分野基礎科学研究所特別研究員PD)、大阪公立大学大学院理学研究科の宮田真人教授らの研究グループは、農作物や甲殻類への病原細菌「スピロプラズマ」の特徴的なねじれ運動に着目しました。この運動を担う2種類の細菌アクチンタンパク質の1つ(MreB1)はATPの加水分解(※3)が速いという超高活性をもち、もう1つ運動に必要なMreB5の繊維でできた骨格構造を不安定にすることを明らかにしました。
この成果は、今後のドラッグデリバリーシステム(※4)や微小モーター開発、病原菌の運動制御に向けた技術基盤となることが期待されます。



用語解説
※1. スピロプラズマ(Spiroplasma)
細胞壁を持たないらせん状の細菌で、電話線のねじれをほどくときのように自分の体をねじりながら泳ぐユニークな運動を行います。他の細菌が運動に利用するべん毛を持たず、細胞アクチンタンパク質(MreB)を使って運動を駆動します。
※2. アクチン
筋肉の主要構成成分として発見された後、動物・植物・酵母などあらゆる生物に存在することが分かっています。筋収縮だけでなく、細胞分裂時の収縮環形成、細胞の変形・移動、細胞内輸送、核内構造の維持や転写制御など、きわめて多様な生命現象に関与する、生命に必須のタンパク質です。
※3. ATPの加水分解
ATP(アデノシン三リン酸)という「生命のエネルギー通貨」と称される分子を分解して、エネルギーを取り出す能力でATPaseとも言われます。ATPが分解されることで、分子が形を変えたり、運動が起きたりします。MreB1はこのATPを加水分解する速度がアクチンファミリーの中で特に高いことが特徴です。
※4. ドラッグデリバリーシステム
薬を必要な場所、必要な時に、必要な量だけ届けるシステムです。薬の投与量を減らしつつ薬効を上げることや、副作用を抑えるための手法として注目を集めています。
論文情報
論文タイトル:A bacterial actin with high ATPase activity regulates the polymerization of a partner MreB isoform essential for Spiroplasma swimming motility
著者:高橋大地、木山花、松林英明、藤原郁子、宮田真人
掲載誌:Journal of Biological Chemistry(JBC)
巻号頁:301(8):110462
掲載日:2025年7月7日
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jbc.2025.110462