骨伝導×立体音響ARの挑戦 - 杉田 泰則

電気電子情報系 准教授 杉田 泰則
Q. 骨伝導とは何ですか?
骨伝導とは、「空気の振動(気導音)」を介さず、頭蓋骨を直接振動させることで、音の振動を直接内耳(蝸牛)に伝える仕組みです。「骨伝導ヘッドホン」は、この仕組みを利用しており、耳穴を塞がずに音楽を楽しめるため、周囲の音も聞こえて安全性や快適性が高いのが特徴です。
Q. 立体音響とは何ですか?
立体音響(3Dオーディオ)とは、前後左右だけでなく、上下方向も含む三次元(3D)空間に音を定位させる技術です。気導音では、デジタル信号処理による高度な音響加工により、リアルな音像定位を実現しています。
Q. 骨伝導で立体音響を実現することはどのような意義がありますか?
骨伝導の「耳穴を塞がない」という利点と、立体音響の「没入感」を両立させる点に最大の意義があります。特にAR(拡張現実)との融合において、その価値は非常に高いです。ARが視覚的なデジタル情報を現実世界に重ねて表示するように、聴覚においても「現実音」と「デジタル音」のシームレスな融合が必要です。耳を塞がない骨伝導は、環境音を遮断せず、そこに立体音響が加わることで、「現実空間の特定の場所」からデジタル音声が聞こえてくる音響AR体験を可能にします。
これは、視覚障がい者向けの革新的な移動支援や状況把握のサポート、聴覚障がい者(主に伝音性難聴者)向けの新しいエンターテイメント体験など、多様な社会的応用を可能にするポテンシャルを秘めていると考えています。
Q. 実現に向けた課題は何ですか?
気導音(空気伝導音)では、音が左右の蝸牛に届く際の時間差やレベル差(両耳間差)、また耳介(一般には「耳」と呼ばれる部分)の形状によるわずかな音色の変化などを脳が認識し、音の方向や距離を把握します。しかし、骨伝導は頭蓋骨全体を振動させるため、この両耳間差などがほとんど生じないという特性があります。そのため、音が頭の中心で鳴っているように感じやすく、リアルな立体音響の再現が難しくなります。
この課題解決には、骨伝導振動子の配置の工夫に加え、本来は得られない両耳間差の情報を人工的に生成し付加するなど、音響心理学に基づいた技術開発が不可欠です。脳に自然な立体音として認識させる信号をいかに創出するかが、リアルな立体音響を実現する上での最大の鍵となります。つまり、いかに脳を騙すことのできる信号を創り出せるか、という挑戦です。


杉田 泰則 Sugita Yasunori
電気電子情報系 准教授(2026年1月現在)
- 2013年4月 - 現在 長岡技術科学大学 電気電子情報系 准教授
- 2007年4月 - 2013年3月 長岡技術科学大学 助教
- 2005年4月 - 2007年3月 長岡技術科学大学 助手
