時空間的に濃縮した“光”による局所加熱を利用した金属析出―3D微細造形への応用を目指して - 溝尻 瑞枝

パルス幅が10-15秒オーダのフェムト秒レーザは、時間的に濃縮された高密度な光で、レンズで集光すると空間的にも濃縮されます。このような光は透明な材料に対しても半波長の光と同等に吸収を発現することがあります。私は、この局所吸収によるエネルギーで、熱拡散を抑えつつ局所加熱し、金属析出させる研究に取り組んでいます。将来的には、材料内部へ任意構造を書き込み、3D微細造形への応用を目指しています。

具体的には、透明原料として金属錯体や金属酸化物ナノ粒子などを調製し、フェムト秒レーザパルスを集光照射します。その結果、焦点近傍の高光子濃度領域のみで吸収が生じます。繰返しパルスを照射すると、少しずつ材料が加熱され、金属ナノ粒子の形成・成長を経て、焼結・溶融が起こり、金属が析出されます。この析出は、単パルスだけで完結する現象ではなく、繰返しレーザパルスが照射されることで初めて金属が析出することが分かってきました。一方、照射するパルス数が過剰になると、熱拡散によって照射部周囲へも金属析出してしまい、「太いペン」で描くことしかできなくなるため、加工分解能が低下してしまいます。そこで、金属の成長速度を制御する界面活性剤を原料の錯体に添加することで、照射部以外への余分な金属析出を抑制できました(図1)。

更に最近では、マルチパルスの照射により、原料錯体からどのように金属が析出していくかを、ピコ秒オーダの「ストロボカメラ」の原理で観測することに成功しました。これまでも単パルスにより完結する現象に関しては同じ原理で超短時間現象を観測した報告はありますがマルチパルスによって初めて生じる金属析出現象をとらえたのは世界で初めてです(図2は計測光学系の一部)。今後はこれまでにセンサに応用してきた炭化現象の解明(図3)や金属の3D微細造形に応用し、センサを簡単にプリントできる技術に発展させたいと思います。

熱の拡散の影響のないCuドットの析出
図1 熱の拡散の影響のないCuドットの析出
図2 マルチパルスによる析出観測系
図2 マルチパルスによる析出観測系
図3 フレキシブルデバイスへの応用例
図3 フレキシブルデバイスへの応用例

溝尻 瑞枝 Mizoshiri Mizue

機械系 准教授(2025年12月現在)

  • 2022年4月 - 現在 長岡技術科学大学 技学研究院 機械系 准教授
  • 2020年4月 - 2022年3月 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 機械創造工学専攻 准教授
  • 2018年3月 - 2020年3月 長岡技術科学大学 産学融合トップランナー養成センター 産学融合特任准教授
  • 2017年4月 - 2018年2月 名古屋大学 大学院工学研究科 マイクロ・ナノ機械理工学専攻 マイクロ・ナノシステム 助教
  • 2013年7月 - 2017年3月 名古屋大学 大学院工学研究科 マイクロ・ナノシステム工学専攻 集積機械デバイス 助教
  • 2010年4月 - 2013年6月 独立行政法人産業技術総合研究所 サステナブルマテリアル研究部門 研究員
  • 2008年4月 - 2010年3月 日本学術振興会 特別研究員(DC2)

機械系 准教授 溝尻 瑞枝